INTERVIEW

種麹屋・菱六もやしに聞く《前編》緑色に茶色の麹も!「種麹」って何だ?

種麹屋・菱六もやしに聞く

■《前編》緑色に茶色の麹も!「種麹」って何だ?
《後編》麹づくりを広めて発酵文化の未来を守る

京都・東山、六波羅蜜寺よりほど近く、この世とあの世の境とされる「六道之辻」。

中世より「冥土への通路」として知られていたこの地に、日本の発酵食文化を支え続けてきた種麹屋さんがあります。

子育て地蔵尊で知られる西福寺の向かい側、歴史と伝統を感じさせる重厚な看板が目を引く「菱六もやし」さん。

江戸時代後期頃より300年以上、麹のもととなる種麹=もやしを作り続けてきた老舗です。

種麹屋さんは全国でも数少なく、現存するのは全国で7社ほどなんだそう。

京都で唯一の種麹屋である菱六さんの種麹は、京都のみならず全国各地の麹を使った発酵食品をつくるために欠かせません。

まさに日本の発酵文化を支えていると言っても過言ではない存在である「菱六もやし」さんの助野彰彦社長に、お話をお伺いしました。

そもそも「種麹」とは?「もやし」って何?

発酵に興味があっても、「種麹」や「もやし」という単語は聞きなれないのではないでしょうか。
私も発酵食品は好きですが、発酵について学ぶ前はこの単語を知りませんでした。

もやしとは何か、一言で表すと「米に良いコウジカビを生やしたもの」だそうです。

コウジカビの中には、毒を出さない安全なもの=麹菌がいて、これが麹をつくるためのもとの菌になります。この麹菌のことを「種麹」=「もやし」と呼ぶんですね。

たとえばお米と種麹で米麹、麦と種麹で麦麹ができるように、穀類と種麹を組み合わせることでできた麹を用いることで、酒や味噌・醤油・みりん・酢などの発酵食品をつくることができます。

日本で古くから使われてきた調味料のほとんどが発酵したものであることから、もやし屋さんが日本の食文化を支え続けてきた、日本人にとってなくてはならない存在だということがわかります。

300年以上もの歴史とお伺いしたので、助野さんが何代目なのかお聞きすると「実は何代目かわからないんですよ」とのこと。

その昔、酒蔵はお酒をつくるために必要な麹を、麹座から買うよう決められていました。
麹座だけが麹を販売できるという特権的なものだったんですね。

ですが、麹座の麹の出来がいまいちだったので、だったら自分たちでつくったほうが良いじゃないかとなり、各酒蔵が自ら麹をつくり、その麹で日本酒をつくるようになったそうです。

そうなると困るのは、麹を専売していた麹座です。
「そうくるならば」と、麹を生み出すための源である種麹を育て販売を始めたのがもやし屋だそうです。

何代目かわからないということは、創業年代についても詳しくはわからないということ。

当時、同じように種麹を販売していたもやし屋さんが書き残した『もやし法伝書』に「菱六」という名称が書かれていることから、その時代にはすでに存在していたということがわかるだけなんだそうです。

江戸時代より培われてきた長い歴史を感じさせられるエピソードにわくわく。

それだけ長い間、日本において麹・発酵食文化が連綿と続いてきたのだと、改めて実感させられました。

積み重ねてきた経験と磨き抜かれた勘で生み出す発酵の源

菱六さんの屋号にある「もやし」ですが、様々な種類があります。
清酒用、味噌用、焼酎用、醤油用など幅広い用途がありますが、菱六さんの麹は以下の4種類。

ひとつ目がこちらの「緑色系麹菌」。
でんぷんの分解力が強く、日本酒や酢、みりん、味噌をつくる際につかわれます。

続いてこちらが、一般的な焼酎をつくる際に使われる「焼酎用麹菌」です。
黒褐色をしていて、クエン酸を出すのが特徴です。

次が、味噌をつくるための「白色系麹菌」です。
菱六もやしさんでも取り扱いが一番多いのがこの白色系麹菌だそう。

もうひとつ、焼酎用麹菌より淡い茶色の、泡盛と黒焼酎用のものがあります。

焼酎用や緑色系麹菌で甘酒を作ることができるのか尋ねると、
「焼酎用は酸味がでるし、緑色系は色がついてしまうが味に問題はなくおいしい」
のだそう。麹菌によってどう味がかわるのか、試してみたくなりますね。

さて、ここで読者の皆さんは、麹菌に「粒子」と「粉末」があることにお気づきになられたのではないでしょうか?

粉末という言葉から、粒子を粉砕して粉々にしたもののことかと思っていたんですが、実は違うんです。

粉末は、麹菌の粒子を、米と胞子に分けて、胞子にじゃがいもを原料とするばれいしょでん粉を混ぜたもののこと。

錠剤を製造するときに使われる、粒子を分解するための機械を活用し、米と胞子に分けているの粉末を製造されています。

なぜ、ばれいしょでん粉なのかというと、「発酵食品を作る際に、種麹をまく機械に粉末を入れるのだが、その機械に一番適しているから」。

粒子ごとまいても問題ないのですが、米の色がついてしまうことがあるので、粉末を使うことが多いのだそうです。

とはいえ、一部の造り酒屋さんではいまだに粒子を使われているところもあり、底が網状になったふるい缶を使って粒子をふるい、胞子をお米にまくのだそうです。

それもまた、伝統として受け継がれてきた方法なんだとか。

同じ色のものでも何十種類とある種麹ですが、どれも300年以上前から今に至るまで代々受け継がれてきました。

また助野さんは受け継ぐだけではなく、世の中、特に酒屋さんの動向を見て、求められそうなものを開発するため日夜努力を重ねておられます。

「今まで積み重ねてきた経験と、もやしを育んできた勘が頼りです。もちろん常に学び、試行錯誤を重ねる日々で、いまだに極めたとは言い切れませんが……」

と、もやしを育む腕を磨くのに余念がない助野さん。

発酵界では知らない人はいないといっても過言ではない存在です。

とはいえ、そんな助野さんですが、実は22歳になるまで家業のことは何も知らなかったのだとか。

後編では、助野さんが「もやし」の道に飛び込むまでの紆余曲折をお伺いします。


後編へつづく。

■菱六もやし

住所:京都市東山区松原通大和大路東入2丁目轆轤町79
TEL:075-541-4141

はっこまち編集部

クドウアユミ

大阪出身。好きな発酵食品はビールと日本酒。休日はお寺や史跡巡りによく行きます。おすすめのお寺は金戒光明寺と萬福寺。好きなものは読書、映画、歴史、古生物、恐竜、海老。



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