INTERVIEW

【菱六・助野彰彦社長インタビュー】300年以上の歴史をもつ京都発祥の種麹屋「菱六もやし」とは・前編

京都・東山、六波羅蜜寺よりほど近く、この世とあの世の境とされる「六道之辻」。

中世より「冥土への通路」として知られていたこの地に、日本の発酵食文化を支え続けてきた種麹屋さんがあります。

子育て地蔵尊で知られる西福寺の向かい側、歴史と伝統を感じさせる重厚な看板が目を引く「菱六もやし」さん。

江戸時代後期頃より300年以上、麹のもととなる種麹=もやしを作り続けてきた老舗です。

種麹屋さんは全国でも数少なく、現存するのは全国で7社ほどなんだそう。

京都で唯一の種麹屋である菱六さんの種麹は、京都のみならず全国各地の麹を使った発酵食品に使われています。

まさに日本の発酵文化を支えていると言っても過言ではない存在。

発酵の源である麹菌を育み続けてきた「菱六もやし」さんの社長・助野彰彦さんに、お話をお伺いしました。

そもそも「種麹」とは?「もやし」って何?

発酵に興味があっても、「種麹」や「もやし」という単語にはまだあんまり馴染みがないのではないでしょうか?

私も発酵食品は好きですが、発酵について学ぶ前はこの単語を知りませんでした。(もやしときいて、野菜が思い浮かんだのは、ここだけの話……)

もやしとは何か、一言で表すと「米に良いコウジカビを生やしたもの」だそうです。

コウジカビの中には、毒を出さない安全なもの=麹菌がいて、これが麹をつくるためのもとの菌になります。

この麹菌のことを「種麹」=「もやし」と呼ぶんですね。

例えばお米と種麹で米麹、麦と種麹で麦麹ができます。

このように穀類と種麹を組み合わせることでできた麹を用いることで、お酒やお味噌、醤油、みりん、お酢などの発酵食品をつくることができます。

日本で古くから使われてきた調味料のほとんどが発酵したものであることから、

もやし屋さんが日本の食文化を支え続けてきた、日本人にとってなくてはならない存在だということがわかりますね。

それは麹菌が日本の国菌として認定されたことからも明らか。

「和食に欠かせない調味料の製造は全て麹から始まる」ことから、先祖代々大切に育み用いてきた貴重な財産だとして日本醸造学会によって2006年に認定されました。

それくらい日本の食文化に不可欠な存在を生み出し続けてきたのが、菱六もやしさんという訳ですね。

300年以上もの歴史とお伺いしたので、助野さんが何代目なのかお聞きすると

「実は何代目かわからないんですよ」とのこと。

昔、酒蔵はお酒をつくるために必要な麹を、麹座から買うよう決められていました。

麹座だけが麹を販売できるという特権的なものだったんですね。

ですが、麹座の麹の出来がいまいち良くなく、だったら自分たちでつくったほうが良いじゃないかとなり、

各酒蔵が自ら麹をつくり、その麹で日本酒をつくるようになったそうです。

とはいえ、そうなると困るのは、麹を専売していた麹座ですよね。

「そうくるならば」と、麹を生み出すための源である種麹を育て販売を始めたのが始まりだそうです。

何代目かわからないということは、創業年代についても詳しくはわからないということ。

当時、同じように種麹を販売していたもやし屋さんが書き残した『もやし法伝書』に「菱六」という名称が書かれていることから、

その時代にはすでに存在していたということがわかるだけなんだそうです。

江戸時代より培われてきた長い歴史を感じさせられるエピソードにわくわく。

それだけ長い間、日本において麹・発酵食文化が連綿と続いてきたのだと、改めて実感させられました。

積み重ねてきた経験と、磨き抜かれた勘で生み出す発酵の源

菱六さんの屋号にある「もやし」ですが、一口に言ってもその種類は様々です。

清酒用、味噌用、焼酎用、醤油用など幅広い用途がありますが、菱六さんの麹は以下の4種類。

ひとつ目がこちらの「緑色系麹菌」。

でんぷんの分解力が強く、日本酒や酢、みりん、味噌をつくる際につかわれます。

続いてこちらが、一般的な焼酎をつくる際に使われる「焼酎用麹菌」です。

黒褐色をしていて、クエン酸を出すのが特徴です。

次が、味噌をつくるための「白色系麹菌」です。

食品売り場などで売っているのは白色ですね。

菱六もやしさんでも取り扱いが一番多いのがこの白色系麹菌だそう。

もうひとつ、焼酎用麹菌より淡い茶色の、泡盛と黒焼酎用のものがあります。

(お話に夢中で写真を忘れるという失態をおかしたんですが、玄米のような色のものですー!)

焼酎用や緑色系麹菌で甘酒を作っても良いのか尋ねると、「焼酎用は酸味がでるし、緑色系は色がついてしまうが味に問題はなくおいしい」とのことです。

麹菌によってどんな味になるのか、試してみたくなりますね。

さて、ここで読者の皆さんは、麹菌に「粒子」と「粉末」があることにお気づきになられたのではないでしょうか?

粉末という言葉から、粒子を粉砕して粉々にしたもののことかと思っていたんですが、実は違うんです。

麹菌の粒子を、米と胞子に分けて、胞子にじゃがいもを原料とするばれいしょでん粉を混ぜたものが、粉末なんですね。

錠剤を製造するさいに使う粒子を分解するための機械を活用し、米と胞子に分けているのだそう。

なぜ、ばれいしょでん粉なのかというと、「発酵食品を作る際に、種麹をまく機械に粉末を入れるのだが、その機械に一番適しているから」。

粒子ごとまいても良いのですが、米の色がついてしまうことがあるので、粉末を使うことが多いのだそうです。

とはいえ、一部の造り酒屋さんではいまだに粒子を使われているところもあり、底が網状になったふるい缶を使って粒子をふるい、胞子をお米にまくのだそうです。

それもまた、伝統として受け継がれてきた方法なんだとか。

同じ緑色のものでも何十種類とある種麹ですが、300年以上前から今に至るまで代々受け継がれてきました。

また助野さんは受け継ぐだけではなく、世の中、特に酒屋さんの動向を見て、求められそうなものを開発するため日夜努力を重ねておられます。

「今まで積み重ねてきた経験と、もやしを育んできた勘が頼りです。もちろん常に学び、試行錯誤を重ねる日々で、いまだに極めたとは言い切れませんが……」

と、もやしを育む腕を磨くのに余念がない助野さん。

発酵界では知らない人はいないといっても過言ではない存在です。

とはいえ、そんな助野さんですが、実は22歳になるまで家業のことは何も知らなかったのだとか。

後編では、助野さんが「もやし」の道に飛び込むまでの紆余曲折をお伺いします。

■菱六もやし

住所:京都市東山区松原通大和大路東入2丁目轆轤町79
TEL:075-541-4141




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