INTERVIEW

出汁は身体に寄り添うもの!?おだしの老舗「うね乃」に聞くおいしい取り方のコツ

はっこまち読者のみなさまはじめまして!「おかん」と申します!
お料理大好きなことから「おかん」扱いされる京都在住のライターでございます!

いつものお味噌汁に、煮物に、これからの時期はそうめんのつゆなどにも必須のアレ。

みなさん、普段の食事でおだしってとってますか?

なんだか難しそうで、手間がかかりそう。料理のスキルが高くないと、おいしいおだしってとれないのでは……と考える人も多いかもしれません。レシピ本を見ても、取り方が統一されてなくて何が正解かわかんないし……。

料理が苦手でも簡単においしいおだしが取れる方法って?
そもそもおだしって料理にどう影響するの?顆粒だとダメなの?

京都のおだしといえばこの会社!明治36年創業の老舗おだし専門店「うね乃」さんにおうかがいしてきました。

日本の食文化にかかせないおだし。味の飲み比べを通じて知ったのは、おだしの味わい深さといろんな料理の味を底上げしてくれる懐の広さ。そして「身体をととのえるもの」として人々の心身に寄り添う日本の風土が産んだスゴいものであったということ。

お出汁のプロによる出汁の取り方……正解は●●!

こんにちは!今日はよろしくおねがいします!

釆野 元英(うねの もとふさ)/昆布やかつお節、液体だしなどの販売と、専門店ならではのおだしを活かしたうどん・おでん専門店などを営む。うね乃株式会社 代表取締役。

さっそくですが、お出汁の正しい取り方を教えてくれませんか?いろんなレシピ本を見ても、昆布の量や火を入れる時間にばらつきがあって。お出汁のプロに聞けば「正解」がわかるのではないかなと。

ん〜、そうか正解……。正解はねえ……。

「あらへんな」

え〜〜〜〜!あらへんの!?

あらへんよ〜〜〜〜!!

だって一言に「出汁」といっても、素材の掛け合わせは無限にあるんだもの。ウチはおだしの専門店としてやっているけど、売っているものはほとんどが「素材そのもの」なんです。おだしの素材、それこそ昆布だって何百種類と種類があるんですよ?

昆布にそんな種類が!?

昆布の銘柄はなんなのか、どこの地域で採れたか、採った人は誰なのか、採れた年の気候や海水温はどうだったか……。そういった要素でおだしの味は大きく変わってきます。素材そのものの味がダイレクトに影響するという点ではワインと同じなんです。

なんと……そんなに変化があるものなんですね!

昆布だけでも何百種類とあって、魚のおだしも無数にある。かつお節も腹側のふしなのか、背中側のふしなのか、血合いの有無、削る厚さで風味は違ってきますよね。サバやトビウオ、マグロなどのふしもある。

さらに関西と関東では水の質も違うでしょ?もっといえば味の好みも違う。それを抜きにして「昆布●cmに水は●CC〜」なんてね、言い切る方が無理なんですよ!もちろん、ウチで扱う商品に関しては「これが適切ではないかな」というお話はできるんですが、みなさん世の中に流通しているおだし全てに明確な「正解」を出すことはできないんです。

は〜、なるほど。となるとですよ、世の中の多くの人は自分のなかの「正解」を見つけられていないのでは。

そう。だから自分にとって心地いい味を探すところからはじめてほしい。「正解はない」とお話したところで、おだしの違いを体験してもらいましょうか。

相乗効果のミラクル!東のおだし・西のおだしの飲み比べ

「じゃあ、出汁を飲んでもらいましょうか」と釆野さん。

じゃあ自分に合った出汁って一体なんなのか?というものを探っていきましょう。ここにふたつの鍋があって、それぞれに別の種類の昆布で出汁をとっています。

見た目で大きな違いはありませんが……?

まずはこれを飲んでみてください。

グビ…!

おぉ……昆布だけなのに味が違う!右の昆布出汁はすっきりとしていて、左の昆布出汁は心なしか甘いコクを感じます。右の出汁のほうが個人的に好きかなあ。

じゃあ次。ここにそれぞれ、かつお節をひとつまみ入れてみましょう。

そんなんで変わる?と思うかもしれませんがコレがすごい。かつお節が加わったことで一気に出汁にパンチがでました。

これはまた全然違いますね!さっきは右の出汁の方が好みでしたが、かつおが入ると左側も「親しみのある味」になった気がします。

なるほど。じゃあ昆布にかつおを足した、つまり合わせ出汁やね。ここに微量の塩を入れて再度味を確かめてみてください。味がさらに変わりますよ。

ほああ〜〜〜〜〜!!!この味知ってるやつ〜〜〜〜〜〜〜!!!!

ね?違うでしょう。

全然違う!!塩が入ったことで右の出汁は味わい慣れた関西の出汁になってます!いいうどん屋さんの味だ〜。逆に左は「親しみのある味」から若干遠のいた気がする……。

理由は昆布の種類にあります。

右の昆布は関西を主流に使われている「利尻昆布」、左側が「羅臼昆布」なんです。羅臼昆布の方は甘かったでしょう。これはどちらかと言うと関東の人が好む味なんですね。

確かに、かつおを加えて羅臼昆布の出汁を飲んだ時は、関東の蕎麦屋さんを思い出しました。

関東地方に住んだことがあったり頻繁に行く人は羅臼昆布も馴染みがあるよね。関西生まれ関西育ちの人は、まあまず利尻昆布の出汁を「おいしい」って認識しますわ。

肉厚でシュッとした利尻昆布(右)に比べて、羅臼昆布(左)はべろんと大きくて色も黄味がかっています。ちなみに同行してくれたはっこまちの担当者さんは生粋の関西人。どの段階でも利尻昆布の出汁の方がおいしいとのことでした。

たぶん関東の人が、関西人がつくったレシピでおだしをとっても「なんだかよそ行きの味がするなあ」と感じると思います。

そうかもしれません!私はやっぱり関西人なので利尻昆布が好みだなあ〜。

自分の好みは利尻昆布だとわかったら、次はかつお節の組み合わせを試してみる。サバ節やイワシ節をブレンドしてみる。自分にどんな服が似合うか、いろいろ試着してみるでしょ?そんなふうに、自分の好みのおだしは何なのかいろいろ試してみてほしいですね。

服を選ぶみたいに、おだしを探求するってことは考えたことがなかった!

味が虚無になる!?やってはいけないおだしのとり方は?

いろんな「正解」があっていいおだし、コレだけは絶対にやってはいけないっていう取り方はありますか?

ひとつはグラグラと煮立てないこと。どんどん雑味が出てきてしまうからね。昆布のおだしなんて水に一晩つけておくだけで充分に風味が出ます。もうひとつ大切なのが、絶対に複数の昆布出汁を合わせないこと。

そうなんですか?合わせたらなんだか「最強の昆布出汁」ができそうな気もしますけど……。

じゃあそれぞれの昆布出汁を1:1で合わせてみましょう。飲んでみてください。

こ、これは!!!!!

無味だ。

そうでしょ?

すごい、互いのいいところを殺しあって虚無の味になってる。なんで〜〜〜〜〜??おいしいものとおいしいものを組み合わせたら相乗効果で「さらにおいしいもの」になるんじゃないの!?

これがおだしの面白いところ。足し算足し算の考えはおだしの魅力を殺してしまうことになるんです。同じ素材を積み重ねても無駄になることが多い。まあ、料亭なんかは合わせ出汁の最後に本枯れ節をサッと加えるような技もありますが、日常のご飯には必要ないですから。

何の味もしない昆布出汁の味気なさ……。せっかくお出汁とったのにこれじゃあガッカリしちゃうな……。

あとはウチの商品でいえば、重量比に対しておだしの素材が3%になるのを推奨してます。1000mlのだし汁が欲しかったら、昆布10gで20gのかつお節……という具合ですね。これも足し算の考えで「いっぱい入れたろ」と、つい多く入れてしまいがちですが、100gを超えてくるともうそれ以上、おだしの味は濃くならない。飽和してしまうんやね。

材料を使えば使うほど、コスパも悪くなりますもんねえ。

おだしは必ず「引き算」であること。シンプルであることが「いいおだし」となって料理を引き立てるんです。

出しゃばらないおだしが食卓で「縁の下の力持ち」になる

本枯れ節やうるめ、いわしなどさまざまなおだしの素材が並ぶ。

「いいおだし」……。釆野さんにとって「いいおだし」って一体なんでしょう?

料理の「縁の下の力持ち」になってくれることやね。

どういうことですか?

わかりやすいのはこれやね、飲んでみてください。

手渡されたのは合わせ出汁にトマトジュース、塩、オリーブオイル、胡椒をふったもの。

お〜〜〜!!滋味深い上質なトマトスープの味がする!!

でしょ?トマトの酸味、塩味、オリーブオイルと胡椒の香りがしっかりとわかる。じゃあ、聞きたいんですけど、このトマトスープに昆布とかつおの味はしますか?

ぜんっっっぜんしない(笑)

これが「縁の下の力持ち」ってことなんです。でしゃばらずに、具材の味をグッと引き立ててくれる。トマトやオリーブオイルなど、具材となる味を差し置いて出汁の味が顔を見せてはいけないんですよ。

すごい。なんかよくわかんないけど、すごく味に深みがある。でも感じる味はすごくシンプルだからグビグビ飲める……!食欲がない時とか、二日酔いの時とか最高に染み渡る味だー!!

「グビグビ飲める」、いい事を言うたね!グビグビ飲めるってことは、身体にとって心地いいことなんです。顆粒だしだとそうはいかない。

顆粒だしだと「縁の下の力持ち」にはならない……?

顆粒だしというのは、人が感じるうま味成分を人工的につくりあげてそれを「出汁」だとしているんですよね。とくに安価な顆粒だしは、塩分とアミノ酸が最も多く、昆布やかつおがほとんど入っていない場合もある。

でもそれは本来のおだしではない……。確かに、安い顆粒だしって全部同じ味になる気がします。

そりゃそやで!素材や味を差し置いて、直接舌や脳に叩きつけるようなうま味成分が入ってるんやから。簡単に「出汁の味がするな」と勘違いしますよ。

「自分にとって心地いいもの」がわからなくなっている

ぼくは単なる「素材屋」なので、自然派だとかそういうことを語るつもりはないんです。でも、僕が顆粒だしをオススメしないのが「自分にとって心地いいもの」ではないからなのよ。

「自分にとって心地いい」……。

たとえば自分でおだしをとると「今日はサッパリしたものが食べたいから、汁物は昆布出汁だけにしよう」とか「豚肉を炊くからそれに負けないようサバ節も足そう」とか、自分の体調やその日の好みに合わせて味の土台を変えられる。でも顆粒だしはそうじゃない。全部を化学調味料の味にしてしまう。

すると本当に身体が求めているものがわからないんですね。どうして顆粒だしは食卓の主流になってるんでしょうか。やっぱりコスパがよくて時短になるからとか?

だったら「だしパック」を使ったらええねん。全国の食文化や水質の差を考慮して、誰でも簡単に「いいおだし」が取れる食材を配合してる。

沸騰したお湯にパックを入れ、5分ほど煮立てるだけの「じん」。うるめやサバの入ったコクのあるおだしが取れる「赤」、昆布とかつおの上品なおだしが取れる「黄」、ベジタリアンにも対応している野菜のみのおだし「緑」がある。

簡単じゃないですか。鍋に入れる、昆布やかつお節でとるよりも楽だし。それに一食分も30円くらいなんですね。

せやろ?じゃあどうして顆粒だしが人気なんやと思う?

え〜〜〜〜???なんだろ、みんな「顆粒だしはいいもの」だと思っているから?みんなが使ってるから?「みんな」って誰のことだ……!?

いや、誰かが「いいもの」だって言ってたっけ。誰が言いはじめたんだ……!???

価値とは……この世の総意とはいったい……???

戻ってきて〜〜。ね、みんな気軽に使うけど、それを使う人は意外と考えなしに使ってるんですよ。なんとなくスーパーでたくさん売られているから、なんとなく便利な気がするから、なんとなく顆粒だしの方が近代的な気がするから……。

結局ね、現代の多くの人たちは「自分にとって何が心地いいのか」わからなくなってるってことなんですよ。

なるほど……。

おだしというのは、身体を整えていくものやと僕は思ってます。ジムに通って体型を維持する、サプリメントで足りない栄養素を補う、しっかりと睡眠時間をとって体力を回復させる。それらと同じようにおだしのある生活を定着できれば、肉体と精神がもっと心地よく生きていけると僕は思っています。おだしの効いた汁物を飲むと、ホッとするでしょ。

確かにそうですね。

忙しい現代で、なかなかそこに注意を向けられない。でも忙しい現代だからこそ、自分で身体を整える術を知ってほしいなと僕は思いますね。

おだし本来の魅力を次世代に繋げたい

うね乃の本店に併設された工場。鮮度が損なわれないよう、毎日製造するおだしは少量ずつ。木造の工場を新設するなど、伝統的な技術をあえて現代に活かしている。

私は普段からおだしをひきますが、どうしておだしが美味しいのか、深く考えたことがなかったです。「自分の身体に心地いいか」という基準はすごく納得がいきましたね……!

確かにいろんな旨味を足し算足し算してるラーメンは美味しいよ!街の中華屋さんのチャーハン、肉汁がしたたるハンバーグが食べたい時だってある。でも、それだけじゃしんどいやん。

今回お話をうかがった本店内に併設されたオープンキッチン「ODAIDOKO」。おだしの試飲や、かつお節の削り方ワークショップなど、顧客とおだしを繋ぐさまざまな企画を展開する。

ファストフードの浸透や代用品の普及によって、いま、おだし本来の魅力を知る人が少なくっています。でも、おだしは日本の食文化に脈々と受け継がれてきた存在。食卓の味に出しゃばらない、縁の下の力持ちだからこそ、家庭それぞれのおだしは個人のアイデンティティにも大きく関わっていく。僕はそんなおだし本来の魅力を次の世代に繋げていきたいと思ってます。

確かに「家の味噌汁」って自分の食の好みをつくってる気がします。人の暮らしに寄り添うからこそ、おだしは懐が広くて味わい深いんですね……!

終わりに

「昆布にかつお節、おだしのさまざまな素材は、日本の風土が産んだ奇跡なんです。その恵みを身近に楽しんでください」と釆野さんは語ってくれました。

そんなに気張る必要もないので、興味がわいたら気軽におだしを取ってみてください。本能に届く「おいしい!」に心が癒されますよ。

私は明日うどんを食べるので、水差しに昆布を入れて寝ます。それではまた〜!

うね乃本店

HP:https://odashi.com/
Facebook:https://www.facebook.com/unenoodashi/
Instagram:odashi_uneno
住所:京都市南区唐橋門脇町4-3
TEL:0120-821-218

おかん(平山靖子)

料理とお酒が好きな京都在住のライター・編集者。Webや雑誌を中心に、ローカルコンテンツや飲食をテーマにした記事をよくつくる。
Twitter:@hirayama_okan



NEW