INTERVIEW

ハッピー太郎醸造所を訪ねて《前編》「顔の見える鮒鮓(ふなずし)」

突然ですが、鮒鮓(ふなずし)を召し上がったことはありますか?

鮒鮓は、琵琶湖で獲れる鮒・塩・ご飯を使って発酵させた滋賀県の郷土料理で、昔は滋賀県内の各家庭で仕込まれ、ハレの日のご馳走として食されてきました。

濃厚な旨味、酸味、独特な香りを持つ良質な乳酸菌を豊富に含んだ発酵食品です。

ハッピー太郎醸造所 Facebookページより

発酵カフェ「漬×麹 Haccomachi」では、鮒鮓を漬けるためのまわりのごはん、飯(いい)を使ったサラダ「鮒ずし飯(いい)のシーザーサラダ」をお出ししています。

ドレッシングに飯(いい)を使用し、飯(いい)そのものもトッピング用に添えています。

玄米でできた飯なので、プチプチと弾けるような食感とチーズを思わせるフルーティなコクがあり、「想像していたよりも全然クセがない!」「白ワインが飲みたくなる♪」といったお声をいただいています。

今回は、その飯(いい)の生みの親であるハッピー太郎醸造所さんにお邪魔してきました。

“ハッピー太郎”?醸造所!?

やって来たのは滋賀県・彦根市。天守が国宝に指定されている名城 彦根城を中心に、伝統的な古い街並みや情緒が残る井伊家35万石の城下町です。

ハッピー太郎醸造所は、彦根駅から車で約10分のところにあります。

この方がハッピー太郎こと、池島幸太郎さんです!

「ハッピー太郎醸造所」と初めて耳にした時は、「え、ハッピー?」「何の会社?」と思いましたが、「幸」太郎さんだから「ハッピー」太郎さんなんですね!

麹や塩麹、甘酒、鮒鮓、味噌、漬物などを製造・販売され、イベント出店など幅広くご活躍なさっています。

あたたかみあふれる手づくりの工房

早速工房を見せていただきます。

─ こちらは蔵ですか?歴史ある建物のようですね。

はい、築120年の土蔵ですね。この蔵と築100年の母屋の間のお風呂のスペースを工房にしました。
土壁に杉板を貼り、自分で柿渋を塗りました。
柿渋には防虫効果や水をはじく効果があります。

ここで主に麹・味噌・漬物(鮒鮓など)を作っています。

生産者の顔が見える食材

─ それでは早速鮒鮓の材料や作り方を教えていただけますでしょうか?

まず材料ですね。

お米は、無肥料・無農薬の自然農法米を作っている池内農園さんの滋賀旭です。
玄米のままですね。

僕がこの玄米にほれ込んだことが玄米で鮒鮓を作ったきっかけです。
食べてみてもらうと、おかきみたいでえぐみがないんですよね。
この玄米のクオリティの高さを何かに活かしたいなと思い、鮒鮓を玄米で作ってみようと思いました。

玄米鮒鮓を作る時に重要なのは、玄米を一晩水に浸けておいて、白米の部分を露出させることですね。

白米の部分が露出していないと、乳酸菌がでんぷん質を食べにくいんですよ。
なので、白米の部分が見えていないと鮒鮓は成功しません。
やわらかく炊き上げることが大切ですね。

─ 玄米で鮒鮓を作るというのは一般的ですか?

全然見かけないですね。僕だけだと思います(笑)。
やってみたら面白いものができたから良かったんですけど、「なんでやらないんだろう?」って思ってました。

─ これはお塩ですか?

はい。長崎県上五島の小野さんのお塩です。

この方の奥様が透析を必要とされていて、より良い塩を体内に入れたいという時にご主人と出会われました。
いわば家族のために作る塩でもあるわけで、とても信用ができるなというのもあって使っています。

─ お米もお塩もご自身が信頼を寄せている方のものを選び、使用されているんですね。

自分ならではの鮒鮓を

─ 鮒について教えてください。

琵琶湖で獲れたニゴロブナを使っています。
良ければちょっと触ってみてください。
これは、一晩乾かしています。

乾かしすぎずソフト干物という感じのところまで水分を飛ばした方が水っぽくならないので。

フナは乾かす前にタワシでこすって、青光りするくらいまで磨き上げます。
少し顔を近づけて匂ってみてください。

─ 想像していたほど生臭さがありません!

粘膜なども含め匂いのもとを取り除くことで生臭さもなくなるよう工夫しています。

─ 日本酒も使われるんですか?

滋賀県湖南市の北川酒造の「エン」というお酒です。
このお酒のお米も、飯に使っているのと同じ滋賀旭の無農薬のもので、僕の知り合いが育てたお米です。

滋賀旭で仕込まれたお酒は現在このお酒しかありません。
生酛づくりで乳酸発酵させて作ったお酒です。

─ 玄米、鮒、塩、日本酒と揃ったところで、どのような作業をなさるんでしょうか?

まず、鮒を容器に入れたお酒に軽く浸します。

その鮒におにぎりくらいの塩加減になるように塩を加えたご飯を詰めていきます。腹の中に全部詰めるんです。

ご飯の量が多ければ多いほど乳酸菌の量が増えてやわらかく仕上がるので、硬い頭のあたりは特にしっかり目に入れます。
骨ごと食べるので、お腹の中からも発酵して柔らかくならなければいけないので。

─ (手にお酒をつけられたのを見て)今お酒を手に付けられたのはどうしてですか?

手に飯が付きすぎると作業し辛いので、お酒で手についたお米を洗いました。
ちょうどおにぎりを作る時の水のような役割ですね。
あと、このお酒が生酒なんです。

麹の酵素が生きている状態で、ご飯を溶かして甘みを出したり旨味を出したりくれます。
また、グルコースという糖分が出るので、酵母発酵しやすくなり、香りが出やすくなります。

最初、麹を使ってみたんですけど、麹だと甘すぎて、鮒鮓とは別の食べ物が出来上がりました(笑)。

そして、桶に飯を敷いて、鮒を並べ、その上にまた飯を乗せてサンドイッチ状にします。

それを積み重ね、再度に重石をします。
ご飯とご飯で挟むことで乳酸を魚に浸透させて柔らかくし、酸性にすることで骨が柔らかくなるんですよ。大体半年くらいは漬けます。

場所によっては1-2年漬ける方もいらっしゃいますが、僕は来年の春まで漬けようと思っています。
この場所だとこのくらいの期間で美味しくなると考えています。

─ 鮒をピカピカに磨き上げられたり、玄米を使われたり、はたまた日本酒代わりに麹を使ってみられたこともあったりと、ハッピー太郎さんならではの工夫やチャレンジをたくさん組み込んでいらっしゃるんですね。

僕は滋賀生まれではないので、滋賀のソウルフード 「鮒鮓」を作れば滋賀県民になれるのでは、という気持ちで鮒鮓を作り始めました。
だからこそ、僕でも食べられる鮒鮓を作りたかったですし、それが僕の役割かなと思っています。

古来から伝わる作り方を守った鮒鮓はもちろん貴重な文化ですが、僕自身が食べやすい鮒鮓を作ったら、新しいお客さんに鮒鮓を知っていただくきっかけにもなるのかなと思います。

ハッピー太郎選!滋賀の美味オススメ5

せっかくなので、鮒鮓以外の滋賀のおいしいものを教えていただきました。

①住茂登さんで頂く琵琶湖の魚、特に「ビワマス」

ビワマスは、琵琶湖とその周辺の河川だけに自然分布する固有種です。

写真の↴ビワマスのお刺身と炙りは、ハッピー太郎さんにご案内いただいた長浜の「住茂登(すみもと)」さんでいただいたもの!
程良く脂がのり、フレッシュ!という言葉がぴったりのとろけるような美味しさを堪能させていただきました。

▼詳しくはこちらから
http://sumimoto-kamo.com/

②木下実験室さんの「テンペ」

テンペとは大豆の発酵食品で、インドネシア発酵文化です。

木下実験室の安藤あゆみさんは、滋賀のオーガニック大豆、特に在来種みずくぐりで高品質なテンペを作っていらっしゃいます。

生での提供にこだわられ、出来立てはお刺身でいただけます。
その他、独特の野草料理を展開。

▼詳しくはこちらから

https://instagram.com/walkinghitree.lab

③発酵料理家たやまさこさんのこだわり「へしこ」

自分に還る場所を発酵を通して提案しているたやさんが工夫して編み出した、たやまさこ流のへしこ。

これが生ハムのような美味しさで、香りも柑橘のようなフルーティさで素晴らしい。

毎年「一桶漬けましょう会」を開催、その他様々な発見のある場を企画されています。

▼詳しくはこちらから

https://tayamasako.com

④政所茶

日本のお茶畑の原風景を残す政所は、雪深い土地で生き残れる在来種を無農薬無科学肥料で守り続ける地域です。

本物のテロワールを表現するお茶で、後味の綺麗さが何より身体に染み込む美味しさです。

▼詳しくはこちらから

http://mandokorocha.com

⑤小松亭タマサートの琵琶湖-ラオス料理

ラオスの淡水魚文化を研究していた小松さんが、同じ淡水魚である琵琶湖の魚に注目して、イベント出店や出張料理で展開されている「琵琶湖-ラオス料理」。

ラオスの魚醤であるパデークを、苦労の末に琵琶湖の魚ハスで再現することに成功。
琵琶湖への愛は深く、即興的に仕立てるラオス料理も抜群に美味。

タマサートとは、ラオス語で天然、ありのまま、という意味だそうです。

▼詳しくはこちらから

https://instagram.com/komatsu_tei._thammasart

いずれもグイグイと引き寄せられそうな盤石ラインナップですね!

今回、漬×麹Haccomachiのシーザーサラダに使っている玄米の飯(いい)がどうやって作られているか教えていただきましたが、玄米鮒鮓は、ハッピー太郎さんが玄米を使ってみようと思われなければ世の中に登場することがなかったんですね。

そして、発酵料理家 真野 遥さんにこの飯(いい)の美味しさを教えていただかなければHaccomachiが知ることもありませんでした。
発酵がつないでくれたご縁に改めて感謝する機会となりました。

続く後編では、ハッピー太郎さんのメインプロダクトである麹や、なぜ発酵の道に入られたのかをご紹介します。

ハッピー太郎醸造所

HP:https://happytaro.jp/
Facebook:@happytarokotaro
Instagram:@happytaro2017
Twitter:@happytaro2017
住所:〒522-0053
滋賀県彦根市大薮町1624
TEL:080-5236-2593(代表者直通)

はっこまち編集部

藤井綾子

京都市在住。好きな発酵食品は、どぶろくと紹興酒。好きなものは和菓子、親子イベント、世界遺産。オススメの旅先はガラパゴスです。



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