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藤原食品・社長に聞く《前編》京都生まれの納豆とは?

発酵食品の中でいちばん好きなものは?と聞かれたら、皆さんは何を選ばれますか。

私は迷わず「納豆」と答えます。
小さいころから「納豆があれば、あとのおかずはいらない」とよく納豆を食べる子どもだったそうです。

それはずっと変わらず、社会人になって1年目。
上司と行ったカレー屋さんで「納豆カレー」をチョイスしたら、「カレーに納豆?」と驚かれましたが、逆に「この美味しさを知らないんですか?」と聞き返したこともあるくらい、納豆は私の食生活になくてはならないものです。

そんなふうに愛してやまない納豆ですが、最近京都に納豆メーカーがあることを知り驚きました。

京都市の北のほう、地下鉄烏丸線・鞍馬口駅からすぐ、住宅街の中にひっそりとたたずむ藤原食品がそうです。

大正14年(1925年)から94年もの間、納豆をつくり続け京都の食卓を支えてこられました。

今回は、そんな藤原食品の4代目社長として納豆づくりに取り組む藤原和也さんにお話をお伺いしました。

大豆と納豆菌だけというシンプルさ

藤原食品では、京ブランド認定商品であり2019年で4年連続「全国納豆協同組合連合会会長賞」などを受賞した「京納豆 大粒」をはじめ全9種類の納豆を製造されています。

ふっくらやわらかく大豆の味をしっかり楽しめる「京納豆 小粒」、大豆本来の味をいかした定番商品である「鴨川納豆」など、京都にお住まいの方なら、スーパーで見かけたことがあるのではないでしょうか?

「納豆は、大豆と納豆菌だけでできるシンプルな食べ物なので、おいしい大豆を使うのが必須条件です。大豆がおいしくないと納豆もおいしくならないので、大豆選びにはこだわっています」

と、藤原さん自ら農家を訪れて選び抜いた大豆でできた京納豆は、大豆それぞれの特色が生きていて、豆一粒一粒をしっかり味わえるのが大きな特徴。

味噌や醤油と違って、納豆の発酵時間は16~20時間ほどと短めで、作り方はとってもシンプル。

まず、藤原さん自ら吟味して選んだ大豆をさらに選別し、割れたものなどが取り除かれたうえでしっかり洗浄されます。

きれいに洗った大豆は、元の大きさのおよそ2倍くらいのサイズになるまで水に浸されます。

季節や温度、豆の種類によっても異なりますがおよそ半日ほどで、十分に吸水させることができるそうです。

「夏冬だけでも変わってきますが、夜だけ暑い日とか、寒い日が難しいですね。気温はもちろん、豆の皮の厚みにも左右されます。吸わせすぎると水分中に養分が出てしまっておいしくないですし、吸水が足りなくても青臭くなるので。はじめのころは、水を吸わせすぎて泣く泣く釜一杯分をだめにしてしまったこともあります」

こちらは、藤原食品の納豆に使う大豆を蒸し続けて約40年の圧力釜です。

「発酵食品ってとてもデリケートなので、例えば作業場の壁がかわっただけでも影響を受けます。だから、釜が変わったらきっと味も変わってしまうでしょうね」

今なお現役で、藤原食品の味を支え続ける釜からは、その歴史の長さと深さを感じさせられます。

十分に水を吸った大豆は圧力釜で蒸しあげられた後、すぐに納豆菌を吹き付けられます。

納豆菌の生命力はとても強く120℃くらいの高温でも死滅しないため、蒸した大豆が熱々のうちに散布しないと活発に働かないのだそう。

こうして納豆菌を接種した大豆は、まだ熱いうちにパック詰めされていきます。

パックに詰めたら、その上にビニールを敷き、タレをセットした状態で発酵室に入れられ、20時間ほどじっくりと寝かされます。(タレは後からセットすると思っていたので驚きました!)

「寝かせる時間が長すぎると、発酵しすぎて匂いが強くなります。逆に発酵が浅いと、糸引きが弱くなるので、大豆に合わせて時間を調整しています」

豆の種類や、気候、気温など諸条件で様子がかわるので、そこを見極めるのが非常に大切なんですね。

十分に発酵が進めば、温度を下げ納豆菌の働きを落ち着かせるため冷蔵庫にて寝かされ、発酵が完了すると皆さんの食卓に届けられるという訳です。

「納豆にする」ではなく「納豆になってもらう」

納豆といえば水戸などの関東地方のイメージが強いなか、4年連続「全国納豆協同組合連合会会長賞」などを受賞し、大健闘されています。

全国各地にたくさんのファンがいて、藤原食品の納豆を買いに遠方から訪れる方も多いのだそう。

そんな藤原食品の納豆のおいしさを支えているのは、藤原さんを含め、作り手の皆さんの納豆への思いです。

「つくり続けるうちに、大豆を『納豆にする』のではなく、『納豆になってもらう』という意識が、自然と芽生えました。人間は納豆菌の力を借りているだけ。納豆になってもらうため、納豆菌が心地よく働ける環境作りをしているだけなんです」

納豆菌が働きやすい環境を整えることが自分たちの仕事だと語る藤原さん。

「結局は納豆菌の働きにすべてがかかっています。発酵が始まれば私たちは何もできません。納豆菌がいちばん活躍できる環境をいかに整えてあげて働いてもらうか、ということが納豆屋の仕事だと思います」

もちろん、素材の良さや作業方法、発酵時間などさまざまな要因はありますが、何よりも「納豆になってもらう」という謙虚な気持ちで向き合うからこそのおいしさですね。

藤原さんに環境を整えてもらったおかげで、納豆菌は今日も元気に大豆を納豆にしています。

次回は「藤原食品・社長に聞く《中編》納豆嫌いの跡取りが、納豆好きになるまで」になります。是非ご確認ください♪

藤原食品・社長に聞くシリーズはこちら

藤原食品・社長に聞く《中編》納豆嫌いの跡取りが、納豆好きになるまで 藤原食品・社長に聞く《後編》京の町でおしゃれに納豆定食を味わいませんか?
藤原食品

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