INTERVIEW

日本酒コンシェルジュ Ponさん・インタビュー【vol.3】酒米から「日本酒」を知る。

vol.1vol.2に引き続き日本酒コンシェルジュ・Ponさんにご登場いただきます。vol.3では、日本酒における熟成の概念や、日本酒の原料として欠かせない酒米についてお話をお伺いしました。

─ こんなに日本酒がお好きだったら、家にいろんな種類の日本酒をお持ちなんでは?

Pon そうですね、家にあるのは、四合瓶や一升瓶を合わせて、だいたい100本くらいだと思います。冷蔵庫に入り切らなくなったので、セラーも買いました。

─ すごいですね。でも、日本酒って買ってからずっと置いていても大丈夫なんですか?

Pon 飲めるという意味では大丈夫です。アルコールの度数が高いので腐ったりはしません。ただ、熟成は進んでいくので品質は変化していきます。特に生酒は、通常2回行われている加熱殺菌が一度も行われておらず酵母が生きているので、品質の変化が大きいです。

また、乳酸菌の一種である「火落ち菌」といって、アルコール度数が高い環境でも繁殖する菌が、ごく稀に繁殖することがあるので、そうなると美味しい状態で飲むのが難しくなります。

─ ということは賞味期限は気にしたほうがいいですか?

Pon 実は日本酒には賞味期限の表示が義務付けられていないので、賞味期限がありません。表示の義務付けがあるのは、製造年月(瓶詰めの月もしくは冷蔵庫から出した月)だけです。

たまに友人から「家から凄く古い日本酒が出てきたんだけど飲める?」と聞かれることがあるのですが、「上手く熟成していれば美味しくなっていると思うから一緒に乾杯しよう!」と言っています。(笑)

─ 自家製の熟成酒ということですね。

Pon もちろん食品なので品質は変化しますが、一般的に火入れであれば変化は穏やかです。生酒の場合は変化が大きいので、造り手の意図する味わいを楽しむのであれば、早めに飲まれたほうが良いと思います。

─ なるほど。生酒を買ったときは早めに飲んでしまおうと思います。

Pon ちなみに、ワインではよく聞く「熟成」という言葉ですが、日本酒にも「熟成」という概念があります。

長期熟成酒研究会では、製造されてから「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」と定義されていて、製造から長期間にわたって保存された日本酒がこれに当てはまります。

─ 熟成させることで味はどう変化するんですか?

Pon 元の酒質によるので一概には言えませんが、香りがより芳醇になり、重厚で複雑な味わいが楽しめるようになります。アーモンドなどのナッツ系、ドライフルーツ、時にはカラメル、シナモンのような風味を醸しだすものもあり、通常イメージする日本酒とは異なる味わいになります。

─ ビンテージということですね!

Pon そうですね。最近、熟成酒も注目されるようになり熟成に力を入れる蔵も増えてきましたが、昔は、消費者に受け入れてもらえなかった歴史があります。

─ 受け入れてもらえなかったとは?

Pon 日本酒は熟成が進むとだんだん黄色がかってきます。透明で澄んでいるものだというのが一般的な常識だったので、消費者にはそれが品質劣化ととらえられることがありました。

─ 実際はそうじゃないですよね?

Pon はい。搾りたての日本酒は黄緑がかった色をしているので、透明にするために活性酸素で濾過する「炭素濾過」が行われていました。今でもこの工程を踏むことが多いですが、色を抜くためというよりも細かいゴミを取ったり、味を調整したりするのが目的ですね。

明治初期頃までは熟成酒も一般的に飲まれていたそうですが、課税方式が「造石税」に変わったのを転機に、文化が途絶えたと言われています。

─ どういう課税方法なのでしょうか?

Pon 簡単に言うと、造ったお酒の量に対して課税される方式です。

今は「庫出税(くらだしぜい)」という課税方式で、売った酒量に対して課税されますが、造石税ではお酒を製造した時点で課税されるので早く販売しないと余分に税金を払うことになりました。

なので、熟成させずに出来上がり次第販売するというのが一般的になってしまったんです。

─ なるほど。昔は熟成酒の文化があったのですね。

Pon 一度途絶えてしまった文化を復活させるというのは難しいですが、最近は熟成酒もだんだんと受け入れられるようになってきました。

熟成させることで生まれる味わいの変化を楽しめるのも日本酒の魅力のひとつなので、熟成酒を飲んだことがない人にはぜひ一度味わっていただきたいですね!

日本酒への愛が高じて、お米愛に発展

─ 日本酒が好きすぎて、お米まで好きになったと聞きました。

Pon そうなんですよね。こんなにおいしい日本酒を生み出す原料であるお米にも興味が湧いて、気がついたら、土鍋で色々な品種のお米を炊飯していました。お米ひとつとっても奥が深く、ますます日本酒が好きになりますね。

─ 酒米と普通のお米ってそもそも何が違うんですか?

Pon お米とひと口にいっても水稲品種では、①水稲うるち玄米、②水稲もち玄米、③醸造用玄米の3種類に分類されています。

①は普段私たちが食べているお米で食味の良いお米です。②は餅などの原料となるねばりの強いお米で、最後の③がお酒造りに適しているお米です。

これらは、でんぷん成分の違いや目的の違いにより分類されているだけなので、①でお酒を造ることも可能で、実際、宮城県などではそうやって造られることが多いです。

─ 酒米はお酒造りに特化されたお米ということなのですね。

Pon 酒米は「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」の略称で、その名のとおり酒造に適したお米で、100種類以上の品種があるんです。

大きな特徴としては、粒が大きいのと、お米の中心付近に「心白(しんぱく)」という白く見える部分があります。

心白はスポンジ状になっていて光が乱反射することで白く見え、そのスポンジ状の部分に麹菌の菌糸が入り込むことで良い麹米ができるわけです。

─ 麹米造りでは、お米の品質が重要になってきそうですね。

Pon お酒造りでは、「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という醸造工程の重要度を示した言葉があるのですが、「一麹」つまり麹米を造る工程が最も重要だと言われています。

となるとその原料となるお米の品質も重要になるので「酒造りは、米作りから」とも言われていて、中には自社で田んぼを持って米作りから取り組んでいる蔵もあります。

─ お米の品質はどのようにして決められているのでしょうか。

Pon 出荷される全てのお米は農林水産省の認可を受けている登録検査機関で「農産物検査」というのが行われます。ここで「品位等検査及び成分検査」が行われ、お米の品位が決められるのです。要は格付けみたいなものですね。

─ 酒米でぱっと思いつくのが「山田錦」しかありません……。

Pon 酒米の王者ですね。兵庫県で開発されたお米で、「山田穂」と「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」を両親に人工交配によって生まれました。現在、酒米で最も生産量が多い品種になります。

酒米の県別・品種別生産量については、日本酒コンシェルジュ通信の記事でビジュアライズ化したものがありますので、そちらを見ていただければと思います。

─ 他に有名なのはありますか?

Pon そうですね、「五百万石(ごひゃくまんごく)」「美山錦(みやまにしき)」「雄町(おまち)」などでしょうか。

特に雄町はとても古い品種で、150年間もずっと栽培されている唯一の酒米になります。酒質も味わいに幅があることから雄町ファンは多くて、雄町ファンのことを「オマチスト」と呼んだりしています。

─ 生み出したい味に合わせて酒米を選んでいるんですね。

Pon そういうことですね。お酒の設計をされる際に、目指す酒質になるよう米や酵母・種麹などが選ばれます。また、県によっては自県のブランド力を高めるために、県オリジナル酒米の開発に力を入れているところもあります。

─ 新しい品種を生み出すというのは大変そうですね。

Pon そうですね。植えて育ててを目的の品質の米ができるまで繰り返す選抜育成だと10年以上かかったりするようです。

ガンマ線照射を行い、突然変異を引き起こすことで品種改良をされていたりもするのですが、近年はゲノム解析を行って選抜育成を効率化させていくことが注目されているようです。

─ ということは新しい酒米が次々に生まれることもあるかもしれませんね!

Pon 考えただけでもワクワクします。酒米は飯米よりも稲の背丈が高く倒れたりしやすいので、栽培が難しいと言われているのですが、もっと栽培しやすくて高品質の品種が次々に誕生するかもしれません。

それこそ今までにない品種の誕生により、新しいタイプの味わいの日本酒に出会える日がくるかもしれませんね。

酒米についてもっと詳しく知りたければ、vol.1でも触れてくださっていましたが、『酒米ハンドブック』/副島顕子(文一総合出版、2017)をおすすめします。

日本酒を造るのに使われる酒米を網羅し、実際のサイズ感もわかるので酒米を愛する全ての人にぜひ読んでいただきたいです。書評も書いたのでよければぜひ。(笑)

酒米についてもアツく語っていただいたところで、お伺いしたお話を参考にしながら実際に日本酒を飲んでみようということになりました。

次回は、Ponさんに教えていただきながら日本酒を飲んでみつつ、Ponさんの日本酒愛をさらに掘り下げていきたいと思います!

■PROFILE

Pon

友人に勧められた日本酒を飲み、電撃が走る。その一杯に出会い、日本酒の魅力にとりつかれる。飲み方スタイルは、お酒に寄り添い語り合う。自家熟成家。日々思うことは、「日本酒を支えてきた全ての文化と人々に今日も感謝」

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