■vol.1 京都伏見の伝統ある酒蔵で学ぶ酒造り ■vol.2 江戸から続く酒蔵を支える職人技とは? ■vol.3 日本酒「富翁」に込められた思い ■vol.4 「最高の酒」をつくりあげるチーム力とは? ■vol.5 「匠の技」を次世代へ!技術継承への使命
11月、もみじが色づきだし京都が多くの観光客でにぎわい始める季節がやってきました。
京都市の南に位置する伏見にもたくさんの観光客の姿が見られますが、ほかの地と違いどこかはりつめたような、シンとした空気が感じられる気がします。
それもそのはず。
晩秋から早春にかけておよそ半年間にわたって行われる日本酒の仕込みが、いよいよ始まりの時を迎えているからです。
1年で最も寒い冬場の時期に酒をつくることから“寒造り”とも言われ、秋の訪れとともに始まる酒造りは、年を越し春がやってくるまでほぼ休みなく行われます。
今回訪れた11月中旬はまさに仕込みの真っ最中のとても忙しい時期。
そんな大変な時期に快くインタビューに応じてくださったのが、「富翁(とみおう)」という銘柄で知られる北川本家さんで杜氏(とうじ)を務められている田島善史さんです。
酒造りに携わって30年という大ベテランの田島さん。
全国新酒鑑評会で10回も金賞を受賞されているだけでなく、京都市伝統産業「未来の名匠」にも認定されていらっしゃるすごい方なんです! (未来の名匠:伝統産業界を牽引する人材の育成を目的に、京都市内で活躍される優秀な伝統産業技術者の方々を認定する制度)
お忙しい中、丁寧に酒造りや北川本家さんの歴史、日本酒への思いなどについてお話を聞かせていただきました。
まずは実際に仕込みの様子を見学させていただいたので、その様子をお伝えしたいと思います。
朝早くから始まる仕込み作業。カギはチームワーク
朝8:30、北川本家さんを訪ねるとすでに仕込みの作業が始まっていました。
「今日の午前は仕込み作業、午後は米洗いをするのでとてもバタバタします。でも酒造りの大切な作業をたくさん見ていただける良いタイミングで来ていただけました」
と、忙しい日にも関わらずにこやかな田島さん。
杜氏直々にご案内していただけるということで少し緊張していたのですが、田島さんが笑顔で出迎えてくださったのでほっとしました。
早速、白衣とマスクを身に着け、現場へ。
まずは実際の作業を少し体験させていただけるということで、仕込みタンクに麹を入れる作業を手伝わせていただきました!
仕込みタンクに仕込むための麹
実際に作業を手伝わせていただく。
田島さんやほかの皆さんが作業されるところを見ていると、軽々進められているように見えるのですが、これがなかなかの重労働。
私が1往復する間に田島さんは2往復目に入っていて、スピード感が全く違いました。
この日、気温が16~17℃ほどの秋らしい気候で、朝なんかは肌寒いくらいだったのですが、これでもまだあたたかいのだそう。
「寒いときの仕込み室は-2℃くらいまで下がることもありますね。こんなにあたたかいとなかなか温度が下がらないので品温調整をします」
寒くて気温が低いほうが仕込みがしやすいのだそうです。
酒造りに不可欠な「一麹、二酛、三造り」
酒造りには、「麹づくり」、「酛(酒母)づくり」、「造り(醪)」の3つの酒造工程の大切さを順に表す「一麹、二酛、三造り」という言葉があります。
ひとつめの「麹づくり」ですが、北川本家さんは自社で麹をつくられているので、乾蔵の5階には立派な「製麹室」があります。
すべて機械化されているのかと思いきや、今でも一部は手づくりなのだそう。
製麹室の前で説明してくださる田島杜氏
「最初は手造りの仕方を学びます。麹ができる工程を理解していないと、機械は扱えません。はじめから機械を使ってしまうと、『なぜそうなるのか』『なぜこの作業が必要なのか』がわからない。まずは工程を理解しないと、機械をうまく使いこなせませんからね」
機械化することで、酒造りに対する考え方が失われることを田島さんは危惧されています。
もちろん機械化したほうが良い部分もありますが、すべてを機械に頼ってしまうということは、その作業の意味合いや役割が忘れられ、受け継いできた伝統や歴史を失うことにもなるからです。
「それに、一番楽しい部分も機械にとられちゃいますしね」と笑顔を見せる田島さん。
手仕事と機械、それぞれの良いところも大変なところも知り尽くしているからこそ言えることだと思いました。
続いて、酒造りに不可欠な要素の二つ目が「酛(もと)」です。
酛とは、酒母(しゅぼ)ともいい「蒸米・麹・水を用い優良な酵母を培養したもの」を指します。
糖をアルコールに変えるために必要な酵母は日本酒をつくるのに欠かせません。
「酛」を仕込んでいく。
「寒い時期の水仕事が多いですが、不思議と手が荒れて辛いということがあまりないように感じます」 と田島さん。
確かに、水をさわることの多いお仕事にも関わらず、田島さんをはじめ皆さんお肌がすべすべでつややか。
よく発酵は肌にも良いと聞くのは、こういうことなのでしょうか。
そうこうするうちに、酒米が蒸しあがる時間になったので、蒸米機のある5階へ。
室内に立ち込める蒸気からは、炊き立てのお米の甘いかおりがします。
蒸米機と、蒸米をチェックする蔵人さんの様子
蒸しあがったお米は余計な水分を一切含まず、中心は白くその周りは透き通っていました。
そのままだとぱらっとしていますが、こねると弾力が出てお餅のようになるので、これを酒造りの世界では「ひねり餅」と呼びます。
蒸米をこねてできる「ひねり餅」
ひねり餅とは、蒸米の蒸しの状態を確認するために、一握りほどの蒸米を手のひらで押しつぶし餅のようにしたもののことを指し、かたさや弾力、香り、肌のすべり、手触りや透明度、蒸米の伸びなどが十分かどうか判断されます。
水を吸いすぎても、吸わなさ過ぎてもだめで、そのバランスが上手くとられているのは、さすが職人技!
押しつぶす前はぱらっとしていたので、これが餅みたいになるの?と思ったのですが、押しつぶしていくとだんだん餅のような状態になりました。
食べてみるともちもちで、お米の香ばしいかおりと甘みが口いっぱいに広がるので、お米そのものの美味しさが感じられます。
このお米のおいしさが、日本酒のおいしさにつながるのだと思うと、お米を蒸すという作業の重要性を実感しました。
vol.2へつづく。
株式会社北川本家
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酒と米 おきな屋
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