「オムレツ」と聞くと、石井好子さんの『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』というエッセイを思い出します。
シャンソン歌手の石井好子さんがパリでの一人暮らしの中での食生活について書いたこのエッセイ。
当時、まだ日本では珍しかったオムレツの調理法や、パリの食文化についての記述が人気で1963年の発表以来、根強い人気を誇っています。
この中に登場するパリでの石井さんの下宿先のアパートに住むマダム・カメンスキーがつくるオムレツの描写がたまらないのです。
「今夜はオムレツよ」とマダムが石井さんに声をかける。熱くなったフライパンへ、1/8ポンドものバタ(「バター」とのばさないところがまた良いんですよね)を入れる。
たくさんバタを入れるので、「戦争中はずいぶん困ったわ」と言いながら、卵4コをフォークでほぐし塩コショーを入れて、かきまぜながら熱くなったバタの中に、いきおいよくさっと入れる。
熱したバタに注がれた卵は強い火でどんどん焼けていくので、手早く包み込んでしまわないといけない。
「こげ目のつかない程度に焼けていて、中はやわらかくまだ湯気のたっているオムレツ」を、こどものころから卵料理が好きな石井さんは「特別おいしい」とおもったそうです。
このエッセイを読んで以来、オムレツと聞くと石井さんの書くマダムの焼いたオムレツが浮かぶようになりました。
たっぷりのバターにふわふわな卵……さぞかしおいしかったんだろうなと憧れ続けています。
ところで、このオムレツに使われている「1/8ポンドほど」のバターって何グラムだと思われますか?
1ポンドは約454gなので、その1/8だと56.75g。
およそ60gほどのバターを贅沢に使ったオムレツだったんですね。確かにたっぷりバターを使ったふわふわのオムレツが絶品なのは間違いないですが、カロリーのことを考えるとちょっとドキドキしてしまいます……。
なので、今回は石井さんのオムレツに使われていたバターの1/5の量だけどふわふわなオムレツが簡単にできるレシピをご紹介します。
発酵食品であるヨーグルトの力を借りて、石井さんの食べたパリのオムレツに負けないおいしいオムレツを作ってみましょう♪
ヨーグルトを使えば簡単【憧れのふわふわ・とろとろ・なめらかオムレツ】
材料
(1人前) | |
---|---|
卵(Lサイズ) | 2個 |
ヨーグルト | 大さじ2 |
塩コショウ | 少々 |
バター(or マーガリン) | 大さじ1(約12g) |
作り方
(1)
卵とヨーグルト、塩コショウを混ぜ合わせる。
※ヨーグルトのダマができないように良く混ぜる。
(2)
熱したフライパンにバターを入れてから、(1)の卵を入れる。
※バターをしっかり熱しておくことで、卵が焦げ付きにくくなる。
(3)
フライパンを前後にゆすりながら、お箸で素早くかき混ぜる。
※前後にゆすることで均等に火が入る。
(4)
卵がスクランブルエッグ状になったら、卵の手前を菜箸で持ち上げるようにして、向こう側に折りたたむ。
(5)
反対側からも折りたたみ、両端を合わせ形を整える。 フライパンの縁を使いながら、上下を返して完成!
※フライパンを軽く上下にゆすると返しやすい。
いつもならケチャップをかけるところですが、せっかくの憧れふわとろオムレツなのでソースもヨーグルトで作りましょう♪
ほんのりスパイシーなヨーグルトソース
材料
ヨーグルト | 大さじ4強(約50g) |
---|---|
塩 | 小さじ1/5(約1g) |
ブラックペッパー | 少々 |
うまみ調味料 | 少々 |
パセリ | 少々 |
ニンニク(お好みで) | 少々 |
混ぜるだけの簡単ソースで、ヨーグルトの酸味と、ブラックペッパー・にんにくのスパイシーさがぴったり。生地に入っているヨーグルトとソースがよくなじんでお店で食べるような本格的な味わいになります。
なぜこんなにふわふわになるのかというと、ヨーグルトを混ぜることで卵が固まるのが防がれて、ふわふわの状態を保つことができるからなのだそう。
同じ乳製品である生クリームを入れるレシピもありますが、生クリームのほうが価格が高いですしあまったときの使い道に困ることがあったので、このレシピはかなり助かりますね♪
今回はプレーンで作りましたが、お好みでじゃがいもや玉ねぎ、にんじんなどの野菜や、ベーコン、ソーセージなどの肉類を入れるのもおすすめ。
粉チーズを入れれば発酵食品たっぷりのオムレツになりますね。ブロッコリーやパプリカを入れれば色鮮やかになりますし、個人的には鰹節と玉ねぎを入れた和風オムレツにするのも好きです!
最後に、石井好子さん流オムレツのコツを。
1. 卵をよくかきまぜること、しかし泡が立つほどかきまぜすぎないこと。
2. バタまたは油が熱したところに卵を入れること。
3. 火かげんは強めにする。
4. 卵を流しこんだら、そのままほっておかず、かきまぜること。
5. 焼きたてを食べさせること。
この5つを守れば、「だれにだってオムレツはおいしくできる」のだそうです。
[参考文献] 石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(河出書房新社、2011年)