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北川本家・田島杜氏に聞く vol.4「最高の酒」をつくりあげるチーム力とは?

北川本家さんにて杜氏を務められる田島さんのインタビュー。

今回は田島さんが酒造りを行う中で大切に考えられていることについてお伺いしました。

酒造りで重要なのは、何より“チーム力”

田島さんは酒造りにおいて、「チーム力」何より大切にされているのだそう。

例えば、午後から行われた米洗いの作業でのこと。

米洗いとは白米についている糠や余分な部分を水で洗い流し、お米を水に浸し適量の水分を含ませていく作業です。

大きな桶とざるに10kgの米を入れ、水を入れていく。

酒米は、通常のお米よりも高度に精米されていて吸水スピードがとても速いので、秒単位で時間を計測し作業を進めていくことがとても重要になります。


秒単位で時間を計測。緻密な作業だ。

田島さんがストップウォッチで時間を計りつつ、ほかの蔵人さんが一声かけるだけで次々と作業が進んでいく様子は、まさに長年培ってきたチーム力の賜物。

「酒造りは、決して杜氏ひとりの仕事ではありません。今日一日作業を見ていただいたのでおわかりいただけたかと思うのですが、どの作業もひとりで行うのは難しいものばかり。酒造りにおいては全員が主人公。なので誰か一人が欠けてもだめなんです」

と、笑顔でおっしゃる様子から、田島さんの酒造りへの情熱と、チームへの愛が伝わってきました。

チームを支える蔵人たちの思い

田島さんが「酒造りは何よりチーム力」とおっしゃるのと同じように、ほかの皆さんも同じ思いを抱いておられました。

例えば、麹造りを一手に引き受けるベテランの西田さんが、酒造りに携わるうえで心がけているのは「良い麹を生み出すこと」なんだそう。

「麹はお酒の味を決める重要な存在です。麹の良し悪しが他の全てに影響する重要な部分なので、ここで失敗すると全てだめになってしまう。なので、自分のできることはしっかりしないと、と思っています」

同じく麹づくりに携わっている石亀さんも、「良い発酵をするように、良い麹を生み出したい」とお話ししてくださいました。

(左)石亀さん (右)西田さん

また、酒母づくりを担当される平井さんは「段取りをしっかり組むこと」だそう。

「準備が不完全な状態だと慌ててしまい、ミスを誘発してしまうからです。生き物を相手に仕事をするので、段取り良く物事を進めていかないと酒母がだめになってしまいますし、酒母がだめだと全員に迷惑をかけてしまうので、きっちり段取りを組むことは、日々心がけています」

酒造りに携わって13年の平井さん

皆さん、自分の仕事がほかの全てに影響するので自身の役割をきっちり果たすことを心がけている、と口をそろえてお話してくださいました。

ひとりひとりが強い責任感を持って酒造りに取り組んでいるのは、杜氏も蔵人も同じです。

こうして全員が同じ思いで酒造りに向き合うからこそ、高いチーム力が生まれ、良いお酒が生み出されているんですね。

和を大切にする“和醸良酒”の精神

田島さんが杜氏としてチームを率いていく中で大切にされているのが「和醸良酒」の精神です。

 ・和があれば良い酒が醸される。
 ・良い酒がある場には和が醸される。

というふたつの意味があるこの言葉。

重労働が多く、時に不眠不休で作業を行う酒造りはひとりの力ではどうにもならないことばかりです。酒造りに携わる人間の仲が悪ければ、一致団結して作業はできません。

呼吸を合わせて作業に取り組めば、良い酒ができる。良い酒を醸すためには酒造りにかかわる人全ての「和」が必要だということ。

そして、もうひとつが、良い酒が和を広げてくれるということ。

お米を育てる農家や、お酒を取り扱う酒店や飲食店などと協力することで「和」が作られていく。酒蔵と、酒蔵の周りを取り囲む環境とをつないでくれるのが良い酒だということです。

田島さんをはじめ、蔵人の皆さんの熱い思いがこもっているからこそ、「富翁」が長きにわたり愛され続けてきたのだと深く感じました。

ちゃんとつくって、ちゃんと知ってもらう。

だからこそ「楽しく飲んでほしい」と田島さんはおっしゃいます。

「ちゃんと勉強して飲むもの・知識がないと飲めないものだと思われる方が多いかもしれませんね。特に若い女性だと、おじさんの飲むものだと思っている方もいらっしゃいますし。

日本酒に対して、難しい飲み物というイメージを持っている方が多いのでしょうが、知識は関係ありませんよ。まずは楽しく飲んでもらって、『日本酒ってこんなにおいしいんだ』と思っていただくことが大切だと考えています」

少しでも興味を抱いてもらうきっかけになればと、全国各地のイベントやワークショップで日本酒の魅力を伝える活動をされています。

お忙しい中、今回の取材を受けてくださったのも、そういった思いがあるからこそ。

「こうして記事にしていただくことで、『日本酒っておもしろそうだな』と感じてもらえればうれしいです。まずは興味をもっていただくところからだと思うので」

とはいえ20年前、杜氏に就任したばかりのころは、毎日必死でそんな余裕もなかったのだそう。

「酒造りはその都度見えるものが違い、『慣れる』ということがありません。慣れたらその分、視野が広がり、今までとは違うことに気づかされるので、常に新しい挑戦になります。こうして対外的な活動にも力を入れていこうというのは、20年前には思いもよらなかったことです」

杜氏として最高の日本酒を造りあげることはもちろんですが、今はそれだけではなく「蔵のことを伝えたい」「日本酒について知ってもらいたい」という気持ちをもって酒造りに取り組んでおられます。

「富翁を飲んでもらいたい、というよりは日本酒をもっと身近に感じてもらいたいですね。もちろんうちのお酒を選んでもらえると嬉しいですけど」

と、笑顔で話してくださる様子がとても印象的でした。

「ちゃんとつくったものを、ちゃんと知ってもらうのが大切だと思っています」

確かに「ちゃんと」つくられた富翁は、北川本家さんの蔵人さんたちの思いがこもっているからこそ、より一層おいしく感じられるのでしょう。

vol.5へつづく。

株式会社北川本家

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