種麹屋・菱六もやしに聞く
■《前編》緑色に茶色の麹も!「種麹」って何だ?
■《後編》麹づくりを広めて発酵文化の未来を守る
日本の発酵文化の礎でもある種麹。
目には見えない小さな小さな菌が、大事に育てられたことで生み出される旨味は、昔から日本の食に欠かせない大切な存在です。
そんな発酵文化を力強く支え続けている「菱六もやし」さんの助野彰彦社長へのインタビュー。
後編では助野さんが発酵業界に飛び込んだ経緯と、発酵文化の未来についてお聞きしました。
きっかけは就活?!300年の伝統を受け継ぐまで
これだけ長きにわたる歴史と伝統があるのだから、幼いころから麹に慣れ親しみ、後を継ぐことを決意されていたのかと思いきや、意外にも家業について知ったのは22歳のころだったそうです。
「東京の大学に通っていたのですが、就職活動のために京都に帰省した時に、両親からたまたま話を聞くまで家業が種麹屋であることは知りませんでした」
突然、家業について聞き驚くのは当たり前。
どうしようかと悩んだすえ、占い師さんにこのことについて相談されたところ、その方に「家を継ぐなら、勉強したほうが良いのでは?」と言われたのだそう。
それならひとまず勉強してみようということで、醸造学科のある東京の大学で2年間みっちり学ぶことにされます。
「醸造学科は短大だったので女性に囲まれながら楽しく勉強しました」
と冗談交じりに当時について話してくださる助野さん。
思いがけず聞いた話から、発酵業界に飛び込むというなんとも朝ドラのようなドラマチックな展開に驚かされました。
変わっていくもの、変わらないもの。
こうして家業を継ぐことになった助野さんですが、ただ受け継ぐだけではなく、時代に合わせてより良いものを生み出そうとされています。
長い伝統と歴史があることから、時代に合わせた変化に対して保守的かと思いきや、菌・米・麹蓋以外の道具は「より良いものに変更」されました。
「麹は生き物なので、同じ通りにやったからといっていつも同じものができるとは限らない。だからこそ、気候や気温、時代の流れや動向に合わせてより良いもの、適したものを使わなければならない」と考えておられるそうです。
日々麹と向き合う中での心がけは、「生やしているものを見ること」。
どういうことかと言うと、例えば、麹を育てる上で、必要不可欠な温度管理。
もちろん適正な温度に調節することは大切ですが、「数字だけを見て判断するのは良くない。数字だけではわからないもやしの育ちを見ることが大切」なのだそうです。
生き物だからこそ数値では測りえない部分があり、数字にとらわれてしまうと、数値化できない部分を見逃してしまうかもしれないから、育ちそのものをしっかりと見つめることが大切だと話されます。
発酵界の未来を支えるために。
最後に、今後の展望について尋ねてみました。
「もやし屋はできることが限られているので、まずはもやしづくりをしっかりとすることですね」
麹を使った発酵食品の源である「もやし」。
全てはここから始まっているので、守り続けるためにもしっかりと日常に根差した仕事をしていきたいと語る助野さん。
「それに良いもやしをつくれば、良い発酵食品ができる。おいしい発酵食品を食べて興味を持ってもらえれば、巡りめぐって発酵の源であるうちに返ってきますしね」
と、笑顔でお話される姿が印象的でした。
「発酵食品は知っていても、麹についてはまだあまり知らない人も多いです。そもそも業者さん相手の商売ですしね。なので、講演会やワークショップで麹づくりを体験してもらうことで業者さん以外にも間口を広げて、菱六もやし、ひいては麹ファンを増やすことができれば、と思っています」
そう語る助野さんのまなざしは、発酵界の未来を見据えており、発酵文化を支えていくという強い意志を感じずにはいられませんでした。
■菱六もやし
住所:京都市東山区松原通大和大路東入2丁目轆轤町79
TEL:075-541-4141