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Discover クラフトビール《後編》 -パンやコーヒーだけじゃない!京都をクラフトビールの街に-

Discover クラフトビール!《前編》では、一乗寺ブリュワリーのブリュワー 林さん・横田さんにビールの製法やクラフトビールの定義などを教えていただきました。
今回は、一乗寺ブリュワリーの魅力に迫ります!
代表取締役の伴社長・林さん・横田さんにお話を伺いました。

一乗寺ブリュワリーとは?

─ まず、この醸造所の成り立ちについて教えていただけますか?

伴 この醸造所は、京都市内の「たかぎクリニック」院長で精神科医の高木俊介さんの志で2011年にできました。
仕事をすることが精神障害を抱えている方の回復に役立つ、彼らの雇用を支援しよう、ということで、いろいろ模索した結果ビールにたどりついたんです。


─ なぜビールだったんでしょうか?

伴 障害をお持ちの方は、色々なタスクを並行してこなしていくのが難しい場合があります。
しかし、1つのことに集中して丁寧な仕事をしていただける方が多いんです。
ビール造りにおいては、ビールができた後にボトルに詰めたりラベルを貼ったりといった作業があるので、ぴったりだなと。

─ 個人個人の特性に合った仕事ができる機会を持てるって、企業側にとっても働く側にとっても、すごくハッピーなことですよね。


伴 精神障害を抱えている方の直接的・間接的な雇用を目標にしてできた会社ですが、その土台として経営を安定させなければ雇用機会を創ることができません。
ですから、まずは高品質なビールを造り続けるということを目指しています。
そして、障害を抱えている方たちに参加していただくことになった段階で、その方々に「一流のモノに携わっている」という誇りを持っていただければと思い活動しています。

─ パンフレットに書かれている「らしさをつくる、クラフトビール」「近寄ってみたら、みんなおかしい」「多様な存在が描く未来を認め合い」といったフレーズには、そういった想いが込められていたんですね。



一乗寺ブリュワリーのビールたち

次にご紹介するのは一乗寺ブリュワリーのビールです。フラッグシップビールは以下の5つで、それ以外に大杉真司さんのイラストをあしらった限定品もあります。

右端は大杉真司さんのイラストをあしらった限定品

1.一乗寺ゴールデンエール アルコール度数:5.0% IBU:32(写真左)

オリジナルブレンドのスパイスを使ったフルーティなビールです。スパイス・麦芽・酵母・ホップの織り成すフルーティかつスパイシーな風味とまろやかな苦味が楽しめます。

2.一乗寺ベルジャンウィート アルコール度数:5.1% IBU:10(写真左から2番目)

多種多様なスパイスを加えたベルギースタイルのビールです。紅茶の様な香りとクリ―ミーな泡が特徴的で、やさしい飲み口が食事を彩ります。

3. 一乗寺レッドエール アルコール度数:6.0% IBU:30(写真左から3番目)

ルビーのような気品ある紅色が美しいビールです。香ばしい麦芽の香りとすっきり優しいコクが楽しめます。

4. 一乗寺スタウト アルコール度数:5.0% IBU:40(写真右から3番目)

焙煎した複雑味のある麦芽のロースト香とカカオ香が香ばしい黒ビールです。グラスにつぎたてよりも15度くらいに手で温めてから呑んだ方が、香りがよく立ちあがります。

5.一乗寺Destroy angel IPA アルコール度数:6.6% IBU:60(写真右から2番目)

IPAは、India Pale Aleの略。イギリスからインドへ船でビールを輸送していた18世紀末頃、劣化防止のために大量にホップを入れてアルコール度数も高くしたビールに由来しています。最近、ホップを効かせたハイアルコールなアメリカンスタイルが流行っていますが、「Destroy Angel」は麦芽由来の優しい風味とコクでゆったりと楽しむイングリッシュスタイルです。

─ どのビールがイチオシですか?

横田 5つすべてを個性的なビアスタイルにのっとって造り、まんべんなくそろえていると考えていますので、どれか1つは選べないですね(笑)
それぞれのビールにファンの方がいらっしゃいますね。

─ 確かに、すべて個性が異なっていますね。ちなみに、「IBU」というのは何ですか?


林 IBUは苦みの指標です。計算上の数字なのであくまで参考ですが。
例えば、IPAはIBUが高いですがビール自体のコクが強いので苦みがマスキングされます。なので、さほど苦くなかったというお声も聞きます。

─ 日本酒で言う「日本酒度」のようなイメージですね。初めて飲むビールを選ぶ際の参考になりますね。
では、一乗寺ブリュワリーの特徴はどういった点でしょうか?

横田 京都の素材を使い、高品質なビール造りを目指しているという点でしょうか。京都のビール醸造会社が集まり「K100ビールプロジェクト」というプロジェクトを進めいるんですが、そちらに参加して、京都産の麦芽・ホップ・イーストを使ってビール造りを行っています。
K100には麦・ホップ・フルーツの農家さんも参加されているので、原料のトレーサビリティも兼ね備えたプロジェクトです。
ブリュワーだけでなく、農家さん・消費者さんとも顔がつながりますようにという目的もありますね。

─ 大麦やホップが京都で作られているということさえ知りませんでした!水尾のゆずや青谷の梅を使ったものもあり、京都色豊かですね。

伴 京都色という意味では、京都マラソンのために造った白味噌を使った「おきばりやす」というビールもありますよ。


横田 白味噌を使ったビールは完成した時、最初は「インパクトが弱いかな?」と思っていたんですが、熟成するうちに味噌の風味が出てきました。
ビールによっては熟成の影響が大きいものもあると改めてわかりましたね。
スパイスの風味も、最初は隠れていたものが熟成ではっきりしてきたりもします。

─ 当社 京都一の傳も西京漬づくりで白味噌を使うので、そのビール気になります!!

伴 他の限定ビールとしては、「ビオスタイル」さんとカカオハスク(カカオの殻)を使ったカカオビールを造りました。
当社も「捨てずに活用」するという考え方や、「しまつのこころ」を大切にしたいと考えているので、親和性が高かったんです。
現在もサステナブルな商品の開発を進めています。

─ そういった商品を口にすることで、飲む側もなんだかちょっといいことをしているような、うれしい気持ちになります。

そして、是非今回伺ってみたかったことがあるんです! 西京漬にはどんなビールが合いますか?

林 「ベルジャンウィート」か「ゴールデンエール」と合わせたいですね。
ベルジャンのほうが苦みが少ないので、合わせやすいと思います。
まだ試したことはないのですが、それぞれのビールのスパイスが西京漬と面白い食べ合わせになる可能性があるとも考えています。

─ ありがとうございます!試してまたご報告させていただきますね。

林 「ゴールデンエール」は、亀岡産麦芽100%と与謝野産ホップを95%以上使用しており、スパイシーかつスッキリとした飲み口なので、油を多く使う料理にも合います。

ただ、穏やかな味わいのお料理にも合うんですよ。
お料理とのマリアージュに関しては、一乗寺ブリュワリーの直営パブである「BEER PUB ICHI‐YA」のスタッフが日々研究していまして、例えば、ICHI‐YAの「豆乳おでん」にも、「ベルジャンウィート」と「ゴールデンエール」が良く合うと教えてくれました。

ベルジャンにはオレンジピール・コリアンダー・ナツメグが、ゴールデンにはカルダモンとクローブが配合されています。穏やかな味わいのおでんにこれらのビールを合わせることで、スパイスの要素が際立ち味わいが膨らみます。ビールにはそういう面白さもありますね。

BEER PUB ICHI‐YAへ

お料理とのマリアージュや「BEER PUB ICHI‐YA」さんのお話が出たところで、伴社長とご一緒にICHI‐YAにお邪魔しました!


─ ICHIYAさんはどういった飲食店さんですか?

伴 一乗寺ブリュワリーのビールを日常的に楽しんでもらう場所にしたいと思いオープンしました。

─ ここに来れば一乗寺ブリュワリーのビールがいつでもおいしくいただけるんですね!味わいのチャートも見易くてわかり易いです。他社さんのビールもあるようですね。


伴 他府県さんのビールをご紹介するのも、クラフトビール全体にとっては大事なことだと思い扱わせていただいています。

─ 利用する側からすると、全国の様々なビールに出会えるのはすごくうれしいですね♪お料理はどういったものを出されているんでしょうか?

伴 オープン当初はビールに合うパブ料理でしたが、今後は料理自体のクオリティに磨きをかけ、「おばんざいタパス」というテーマで小皿料理をお出しします。
衣にビールを使ったフリットやビールで煮込む料理など、特徴のあるお料理もお出ししています。
注ぐ時にロスになるビールもあるので、そういったものを無駄にせず活用しています。

ビールフリット(ゴールデンエール入)

生麩味噌グラタン

乾燥野菜とスモークチーズ

─ 個性あふれるビールがたくさんあり、自分好みのビールを次々にオーダーできる。さらに、ビールを使ったりと特徴ある美味しいお料理が味わえる。
行ったことを誰かに話したくなりますし、友人を連れて来たくなるお店ですね。

伴 ありがとうございます。
ICHIYAのICHIは一乗寺の一、位置、そして市場の市。いつもお客さまの日常の中にありたいと願っています。

お話を伺ったあと、醸造所で林さん・横田さんが造られたビールをいただいてみました!
「クラフトビール飲み比べセット」をオーダーし、以下の3種をチョイス。


6:おきばりやすエール(写真左)
まったりとした味噌の雰囲気がアフターに感じられ、他のビールを口にしてから「おきばりやす」に戻るとより味噌感を感じることができました。ほのかな酸味も感じられ、食欲を刺激してくれるので食中酒に良さそうです。
5:Destroy angel IPA(写真中央)
非常に華やかだなアロマが印象的でした。あまりに豊潤な香りだったので、「オレンジピールの香りがいいですね!」とお伝えすると、「それはホップの香りなんです♪」と横田さんに教えていただき衝撃でした!ホップはハーブなんだ!と実感★コク深いのにキレもあるのでどんどん飲み進んでしまいます。しかしアルコール度数は高めなので確かに危険なビールです(笑)
4:一乗寺アップス珈琲スタウト(写真右)
「京都西陣アップス珈琲」さんとのコラボで生まれたこちらのビールは、食後のコーヒーが欲しくなるタイミングでいただきたいビールでした! ミディアムローストのコーヒー豆を使用しているので、焙煎感がそこまで強くないものの、ほど良いコクと香ばしさがしっかりとあり、コーヒー感とビールのシャープな味わいを感じることができました。伴社長はこちらとバニラアイスをミキシングして召し上がるのがお好みだとか♪

三種三様のオリジナリティを存分に楽しむことができ、まさにクラフトビールの醍醐味を実感しました。

京都をクラフトビールの街に

取材させていただいて感じたのは「クラフトビールは自由!クラフトビールは多様!」ということ。

苦味やアルコール度数、麦・ホップ・酵母由来の味・香りの違いに加え、スパイスやフルーツを加える自由度もあるので、醸造家の考えやキャラクターが映し出される多様性に溢れた飲み物だと感じました。

また、日本酒やワインは食事に合わせて飲むことが多いですが、ビールは食事に合わせることもありつつ、単体で飲む場面も多く、より幅広いオケージョンで気軽に楽しむことができます。

「ビールは好きじゃない…」という方でも、クラフトビールなら、その人好みの味わいが見つかるのではないでしょうか?


一乗寺ブリュワリーのビールには、クラフトビールが持つ多様性や自由な空気感、そして人間の多様性を認め合う造り手のスピリットが息づいていました。

「京都をクラフトビールの街に」という一乗寺ブリュワリーの思いが実を結べば、クラフトビールのおいしさで人々に笑顔が溢れ、お互いをさらに認め合えるようになるのでしょうね。

そんな世の中に想いを馳せて今夜もビールをいただきましょう☆
No craft beer, No life!



施設情報

【株式会社 京都・一乗寺ブリュワリー】
住所:京都市左京区一乗寺出口町10-1
電話:075-702-2002(平日 10:00〜17:00)
公式サイト:http://kyoto-ichijoji-brewery.com

【BEER PUB ICHI-YA】
〒京都府京都市中京区御幸町通蛸薬師下る船屋町384 Casa INO’s 1F
TEL: 050-5592-4067(11:30~23:00(L.O))(不定休)
公式サイト:http://www.kyoto-pontocho.jp/shoplist.html#shop_ichiya