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Discover クラフトビール《前編》-ブリュワーさんに学ぶクラフトビール入門編-

皆さんは「クラフトビール」と聞くとどんなビールを思い浮かべますか?

おそらく、十人いれば十人が別のビールのボトルや缶を思い浮かべるのではないでしょうか?

どんなビールをクラフトビールと呼んでいいのやら?
また、1990年代にブームが起こった「地ビール」とはどう違うのかもよくわかりません・・・
ビールは発酵でできあがっているだけに、Haccomachi編集部としては知っておきたい!!

ということで、「クラフトビールとは?」を教えていただきに、京都市左京区にある一乗寺ブリュワリーさんにお邪魔してきました!

ビールができるまで

一乗寺ブリュワリーでは、20年以上のブリュワー歴をお持ちの林 晋吾さんと、東京農業大学院で醸造学を修められた横田 林太郎さんのお2人のブリュワーさんがビール造りをされています。

ブリュワーの林 晋吾さん(左)と横田 林太郎さん(右)

まずは横田さんに工場内をご案内いただきながら、ビールがどのようにできるかを教えていただきました。

【一乗寺ブリュワリーのビール製造工程】

①マッシング

粉砕された麦芽とお湯をタンクの中で混ぜあわせ90分程度置く→ 酵素デンプン反応が生じ糖化する。

横田さん’s コメント
麦芽の中のでんぷんと酵素が化学反応を起こすことで糖化が起こり、甘いスープのような状態になります。ちょうど、私たちが口の中でごはんを噛んでいると甘くなっていくのと同じ化学反応です。

写真左:ローストモルト  写真右:大麦麦芽

このタンクでマッシングが行われます

②濾過

麦芽の殻を濾して、麦汁と麦芽粕に分ける。

③煮沸

ビールの苦みと香りの成分であるホップを添加して煮沸。

横田さん’s コメント
ホップはツル性のアサ科植物のハーブです。花の部分が丸みのある松ぼっくりに似た形をしていることから毬花(まりばな)と呼ばれており、その中に香りと苦みの成分がつまっています。
ビールはフルーツやスパイスを自由に入れてもよいお酒で、この時点でそれらを添加します。1時間煮沸することで香りと苦みがしっかり移り、コクが加わります。

④発酵

麦汁を発酵温度に合わせて酵母を添加。1週間発酵・2週間熟成させ、樽から瓶に詰めて完成!

横田さん’s コメント
酵母=イースト菌は、10マイクロ程度の目に見えないほど小さな生物です。糖分を食べて二酸化炭素とアルコールを作ります。
パンにも使われますが、パンの場合は生地の中の糖分を食べて二酸化炭素を吐き出し生地がふくらむというメカニズムで、ビールの場合は麦汁の中の糖分をイースト菌が食べてビールになります。
世の中のお酒は酵母がないと造ることができないんですよね。

今までビールのCM等でホップ・麦芽という言葉を聞いたことがありましたが、どんな風使われているのかを初めて知り、「ビールって農産物でできているんだ~」と改めて感じました。

また、酵母のチカラで発酵してビールの炭酸がシュワっと生まれるということも学ぶことができました!発酵バンザイ★

クラフトビールとは?ラガー?エールって?

次に、クラフトビールに関する疑問を林さん・横田さんにお尋ねしました。

─ 工場見学の中で、「麦芽・ホップ・水・イースト菌でできる」と伺いましたが、大規模ビールメーカーさんで造られているビールも同じ材料から造られますか?クラフトビールとは何か違うんでしょうか?

横田 はい、基本的な材料は同じですね。ただ製法が違います。 クラフトビールは、エールタイプの場合が多いですね。対して、大きなビールメーカーさんの場合はラガータイプが多いです。

─ あ、ラガーって聞いたことあります。ラガーとエールってどう違うんでしょうか?

林 ビールには大きく分けてラガーとエールがあり、使う酵母が違うんです。
ラガービールには「ラガー酵母(下面発酵酵母)」が使われます。“下面”という名前通り、発酵の終盤にタンクの下に沈む性質がありまして、すっきりとしたドライなビール仕上がります。


─ エールはどんなビールでしょうか?

林 エールビールには「エール酵母(上面発酵酵母)」が使われ、その酵母は発酵終盤に表面に浮いてくるので“上面”という表現が使われています。
熟成・発酵期間がラガーよりも短いという特徴があり、小ロット・多品質製造を行う小規模メーカーにとっては製造しやすいため、クラフトビールではエールが主流となっています。

─ だから一乗寺さんでもエールビールが多いんですね。

林 そうですね。
そして、エール酵母の発酵温度は18℃~24℃とラガー酵母と比べて高く、発酵温度の高いエールビールを発酵させると、多くのエステル(香りの素となる成分)が生まれます。
その結果、エールビールはフルーティで芳醇な香りに仕上がります。

─ エールは香り豊かなものが多いですよね。
私は、日本酒は大吟醸、ワインの品種はリースリングやミュスカなどアロマティック品種が好きなので、やっぱりエールが好きなんだとわかりました。

地ビールとクラフトビール


─ それから、クラフトビールに関してなんですが、クラフトビールは、以前よく耳にしていた「地ビール」とどう違うんでしょうか?

林 もともとは地ビールという言葉しかありませんでした。
同じ意味なはずなんですが、今はクラフトビールという言い方が主流ですよね。
地ビールという言葉からは街おこしのためのビールを連想しますが、一方クラフトビールはクラフトマンシップが息づいた醸造家のこだわりのあるビールです。

─ クラフトビールを分類するための原料生産量の定義はあるんですか?

林 日本の場合、規模の大小による規定はありません。
また、必ずしも地元の原料を使わなければならないわけではなく、世界各地にあるビールを自分たちの解釈で造ってみようという精神で造られものをクラフトビールと呼んでいます。

─ ご説明ありがとうございます♪すごくわかり易くて、スーッと頭に入ってきました!

今回は、一乗寺ブリュワリーの林さん・横田さんにビールの造り方や、ラガーとエールの違いなどを教えていただきました。皆さんも次にビールを飲まれる際・選ばれる際は、ラガーとエールの特徴を意識して味わってみてください。

次回は、一乗寺ブリュワリーが造るビールや楽しみ方など、醸造所の魅力をご紹介します!



施設情報

【株式会社 京都・一乗寺ブリュワリー】
住所:京都市左京区一乗寺出口町10-1
電話:075-702-2002(平日 10:00〜17:00)
公式サイト:http://kyoto-ichijoji-brewery.com