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京都伝統の味わい!塩だけで漬け込む乳酸発酵の漬物「すぐき」 美味しい食べ方やアレンジ方法もご紹介

京都三大漬物のひとつ。冬の時期には新漬けも

しば漬け、千枚漬けと並び、京都三大漬物として名を連ねている「すぐき漬け(すぐき)」。
11月~12月にかけて収穫される「すぐき菜」と呼ばれる京野菜を塩だけで漬け込み、乳酸発酵させて作ります。
すぐき菜は基本的にすぐき漬けの原料として利用され、京都でも生野菜として流通することはほとんどないのだとか。

延宝4(1676)年に黒川道祐によって書かれた「日次紀事」で記述があるように、すぐき漬けとして食べられるようになったのは遡ること江戸時代。
もともとは上賀茂神社の社家のみで栽培され、御所へ献上されていた高級漬物でしたが、江戸時代後期には農家でも作られるようになりました。
しかし、文化元年、当時の「就御書口上書」でほかの村へ持ち出すことが禁止され、一般に普及したのは明治維新以降だったそう。
そのため、上賀茂の地にのみすぐき菜の栽培方法やすぐき漬けの作り方が伝わったとされています。

ちょうど12月初旬の今の時期に樽出しされる新漬けを毎年楽しみに待つ人も多い、京都伝統の冬のお漬物「すぐき」。
この記事では、作り方や美味しい食べ方、さらにはちょっとしたアレンジをまとめました。

すぐきはどうやって作られるの?

冒頭でも触れたように、すぐきの材料はすぐき菜と塩の2つだけ。
大きく4つの工程で作られます。

面取り
収穫したすぐき菜の皮やひげを包丁で丁寧に落としていく作業からスタートします。
荒漬け
面取りしたすぐき菜を樽に入れ、そこへたっぷりの塩をふり、重石をのせて一晩漬け込みます。本漬けの前にあらかじめ塩を浸透させる下漬けの工程となります。
本漬け
荒漬けが終わったらいよいよ本漬けです。
すぐき菜を渦巻き状に樽に敷き詰め積み上げていき、1段ずつ間に塩をふります。
最後の段は根の部分が空気に触れないよう葉で覆い蓋をしたら、丸太棒の先に重石をくくりつけテコの原理で樽に圧力かける「天秤押し」という方法で漬けていきます。「天秤押し」をすることで、普通に重石をのせる約10倍もの圧力がかかるのだとか。(現在は、圧縮機で圧力をかけるのが主流となっているようです)
圧力をかけ空気に触れないようにすることで、乳酸菌以外の菌の繁殖を防ぎます。
室入れ
本漬けで終わりではなく、最後に約40℃に保たれた室(むろ)で一週間ほど乳酸発酵させます。 この工程を経ることで、すぐきの最大の特徴である爽やかな酸味が生まれます。
※作り方は一例です。

ラブレ菌の生みの親?すぐきに含まれる「乳酸菌」とは

すぐきは植物性乳酸菌による「乳酸発酵」を利用して作られるお漬物です。
その中でも特筆すべきなのが「ラブレ菌」が含まれるということ。

乳酸飲料やサプリなどにもよく用いられ、今ではよく耳にするこのラブレ菌ですが、実はすぐきから発見された乳酸菌ということはご存じでしたか?
ルイ・パストゥール医学研究センターの岸田綱太郎博士(1920-2006)が「京都の男性が全国2位の長寿であること」をきっかけに、その秘訣はなんだろうと京都の人がよく食べる「漬物」に注目し調べていたところ1993年に発見に至ったのだそう。

乳酸菌を摂ることで腸内環境がよくなり免疫力アップにつながる…というのはよく言われることですが、このラブレ菌には、体内でインターフェロン(ウイルス感染などから体を守る働きをする物質)をつくり出す機能を高める働きがあることが認められているのだとか。
さらにインターフェロンの中でも、感染症やがん細胞から体を守ってくれるNK細胞を活性化させると、注目を浴びている乳酸菌です。

すぐきを美味しく食べよう!おすすめの食べ方とは?

今回は、編集部で新漬けのすぐきをお取り寄せしました。
ひと株で売っているものを購入したのですが、同梱されていたリーフレットを参考におすすめの切り方をしていただいてみました。

すぐきの切り方

① 葉の周りなどについている塩を水洗いでさっと落とし、水気を拭き取る。
② 葉とカブの部分を分ける。
③ カブ部分は横に三等分し、5mm~10mmほどの厚みで縦にカットしていく。葉の部分は少し固いので、細かく刻む。

今回はおすすめ通り繊維に沿ってカットしましたが、いちょう切りや細かく刻んでも美味しいとのこと。
切り方を変えることで食感が変化するので、ひと株買った際には好みの切り方を探してみるのもいいですね!

おすすめの食べ方

原料から製法まで、他の漬物ではなかなか味わえない特徴のある味わいのすぐき。その独特で魅力的な味は、やはりそのままお茶うけや、ご飯と一緒にシンプルにいただくのが一番です!

果物のように爽やかな香りが鼻をくすぐり、食欲が刺激されます。
塩をたくさん使って漬け込んでいたり、乳酸発酵しているとのことで、酸味と塩味が強いのかなと思いきや、思ったより塩味がきつくなく、すぐき菜の素材がもつ甘みも感じられます。そして、噛めば噛むほど発酵由来の酸味が口の中に広がり、クセになってあともう一切れ…と食べ進めたくなるような味わいですよ。

醤油を垂らしたり、七味やごま、山椒などを少し足して食べるのもおすすめです。もし独特の酸味が少し気になるという方であれば、醤油をかけることでかなり食べやすくなると思います。

今回いただいた“新漬けすぐき”は、そのフレッシュな味わいが魅力とのこと。
実は、“時候慣れすぐき”という、漬け込んだ後、そのまま葵祭すぎまで時間をかけて発酵させて食べるすぐきも存在します。
こちらは深い酸味と熟成された旨味が特徴の味わい。先ほど紹介した「ラブレ菌」がより豊富に含まれるのは、「時候慣れすぐき」の方なのだとか。
時間経過とともに楽しめる味わいが変化していくのも発酵食品の魅力のひとつですね。

実はおかずや洋風にも!簡単プラスオンアレンジ

肉と炒めて

刻んだすぐき漬けと豚こま肉を炒め、最後に少し醤油で味を整えると、すぐきの旨味が豚肉のコクにマッチしたメインおかずが完成します。
漬物のしっかりした味わいと酸味が具材に移り、醤油だけで味が決まるので、すぐき以外のお漬物でも試してみてほしいアレンジです。

パスタの具材に

パスタの具材にすぐきを使うのもおすすめ!
和風パスタはもちろん、ペペロンチーノにもよく合いますよ。 すぐきを使うときは、いつもより塩を少な目にしてパスタを茹でてくださいね。

他にも、チャーハンにしたり、えびやたこと和えたりと、色んなアレンジが可能です。 もちろんそのままでとっても美味しいですが、いつもと一味違う味わいで楽しみたい、ワインなどに合わせたいというときにはぜひ試してみてください!

室で発酵を促す珍しい製法のお漬物「すぐき」

乳酸菌が含まれるお漬物には、ぬか漬けやしば漬けなどがありますが、材料の生産地が限られ、本漬けの後に高温の部屋で乳酸発酵を活性化される製法が取られているすぐきは唯一無二のお漬物。

ぜひ新漬けが出回る今の時期や発酵が進んだ夏頃に手に取って食べ比べしてみてください。

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