発酵を手軽に楽しむためのWEBマガジン

「西京漬け」をひも解く 〈vol.1〉 – 京都の白味噌を使った伝統料理

発酵WEBマガジン「Haccomachi」を運営する京都一の傳の看板商品である「西京漬け」。
関西の人にはなじみ深い料理ですが、中には具体的にどんなものかを知らなかったり、食べたことがない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はそんな「西京漬け」を深堀りしたいと思います!

まずは西京漬けに使われる発酵食品「西京味噌」についてお話しますね。

西京味噌ってどんな味噌なの?

味噌は使う原料によって、米麹+大豆で作る「米味噌」、麦麹+大豆で作る「麦味噌」、豆麹+大豆で作る「豆味噌」、そして3種もしくは2種から調合して作る調合味噌に分けられます。

米味噌は日本で最もポピュラーな味噌で、米由来のやさしい甘さが感じられる味噌です。
麦味噌は風味が豊かであっさり。九州や四国地方が主な産地です。
豆味噌は甘さ控えめで煮込んでも香りが弱くならないのが特徴。中京地方でよく作られています。確かに豆味噌で作る味噌煮込みうどんは煮込んでも香り高く美味しさが変わりませんね。

西京漬けの味の決め手となる「西京味噌」は、米麹と大豆で作る「米味噌」に分類されます。

原料で分類される味噌ですが、その熟成期間によって色に違いが出るのはご存じでしょうか?

麹の種類や作り方によってさまざまですが、基本的に熟成期間が長ければ長いほど、白から薄い茶色、さらには褐色へと色が変化します。
これは、熟成中にアミノ酸と糖が反応(メイラード反応と言います)するためなんだそう。

西京味噌はこの中でも「白味噌」といって熟成期間が短い味噌にあたり、淡いクリーム色が特徴。
また、西京味噌は米麹の比率が高く塩分は控えめ。
そのため、上品な甘みと風味を強く感じることができる味噌なのです。

なぜ西京漬けを漬け込む味噌に「西京味噌」が選ばれたのか

京料理をはじめ、関西では素材の色を活かした料理が好まれます。

茶色っぽい信州味噌や八丁味噌に漬け込むと、味噌の色が勝ち、魚本来の色が失われてしまいます。この“焼いた後も素材の色が損なわれない”というのが、白味噌である西京味噌を使う理由のひとつです。

また、もうひとつの理由は西京味噌の持つほどよい塩分と米麹のやさしい甘さ。

塩分濃度の高い味噌で漬け込んだときのように塩辛くなりすぎず、まろやかな甘みの中にほどよい塩味が感じられ素材の味が際立つということから好んで使われるようになりました。

西京漬けのほかにも!白味噌を使った食べ物

西京漬け以外の白味噌を使った食べ物というと何を想像されますか?

関西では「お雑煮」に白味噌を使うご家庭が多いのではないでしょうか。
ほかにはぬた(てっぱい)や田楽みそなども白味噌を使った代表的な料理です。

そのほかにも、花びら餅、松風、あぶり餅などの和菓子にも使われています。

「花びら餅」はお正月にいただく、味噌餡やゴボウを求肥やお餅で包んだ京都の伝統的な和菓子です。上品な見た目と味わいで新年にぴったりです。
「松風」は司馬遼太郎の歴史小説「燃えよ剣」にも出てくるお菓子ですね。素朴な味わいで、白味噌の甘味はもちろん塩気がたまりません。
「あぶり餅」はきな粉をまぶした親指大の餅を竹串に刺し、炭火であぶったあとに白味噌のタレをぬった餅菓子です。今宮神社の近くにある「一和」「かざりや」が有名ですよね。以前Haccomachiでもご紹介しています。(あぶり餅の記事はこちらから)

このように素材の色を活かすことができ、塩分濃度が低く甘みの強い白味噌は、昔から「和菓子」に使われてきました。

その糖度を利用し、砂糖の代わりに甘味を出す役割を果たしてきたのですね。

「西京漬け」のはじまりとは

それでは、本題の西京漬けのお話に移ります。
西京漬けは、京都の白味噌「西京味噌」を使って作られる味噌床に魚や肉の切り身などを漬け込んで作る京都の伝統料理。
もともとは、海から離れた京都でも、美味しい魚を食べられるように保存性を高めるため、味噌に漬け込んだことがはじまりと言われています。

当時は貴族や僧侶など、一部の人しか口にできない高級品だったのだとか。
茶の湯が流行した東山時代に一般家庭にも広まっていったそうです。

昔は長期保存させるため塩味の強い西京漬けが主流でしたが、現在では物流網や冷凍・冷蔵技術の発達により保存性を高める必要がなくなり、”素材の旨味を引き出すために漬ける“という意味合いが強くなってきました。

「西京漬け」の魅力

西京漬けの魅力は何といってもその風味と旨味。

じっくりと味噌床に漬け込むことで味噌の旨味成分が魚に移り、魚などの素材の旨味だけでなく、味噌床に入っている味噌、醤油、酒などの調味料のもつ旨味も感じられる奥深い味わいになります。

実際、味噌床に漬け込むことにより味噌の旨味が魚に移り、素材の旨さを際立たせます。

大体漬け込んだ1~3日目には素材に味噌床の味が移るので、きちんと漬け込まれた西京漬けは、まわりの味噌をしっかりとふき取っても味噌の風味や旨味を味わうことができるんです!

魚の身質によって、味噌床の旨味成分のもとである〔塩分〕・〔糖度〕・〔アミノ酸〕が味噌床から魚へ移る時間が変わってきます。

例えばメロという脂の多くたんぱく質が少ない魚は、もともとアミノ酸が少ないこと、脂が多いため塩分の影響を受けにくく身がしまって硬くなりにくいことから、長く漬け込む方が美味しく仕上がります。
西京漬けの王道であるさわらはメロより脂が少なめでその分たんぱく質が豊富。その場合は身が硬くなりやすいため短めの漬け込みが適しています。

しっかり漬け込み味噌を拭った西京漬けをじっくり焼き上げると、甘いお味噌の香りが立ち上り、食欲をそそります。 この焼き上げた時の香りのよさも西京漬けの特長のひとつですよね。

中までしっかりと旨味が浸透するように漬け込まれた西京漬けは冷めても美味しいのも魅力。

西京漬けは懐石料理の八寸に使われたり、松花堂弁当といった仕出し弁当には欠かせない料理です。素材の彩りはそのままに、冷めても美味しさを保つ風味と旨味があり、塩焼きとは異なる奥深い味わいが楽しめます。

京都一の傳秘伝の西京漬「蔵みそ漬」

京都一の傳の西京漬「蔵みそ漬」は、西京漬けに適した脂乗りのよい厳選したお魚を、独自の配合の秘伝の味噌床にじっくり二昼夜漬け込むという伝統の「本漬け」製法でお作りしております。創業からもうすぐ100年、長きにわたり作り続けてきた味をご堪能いただけます。

特に「銀だら」はお口に入れるととろけるような味わいで、お客様から「こちらの味が一番好きで他店の物が食べられません」「時々、無性に食べたくなる」などのお声もいただいているおすすめの逸品となっております。

私も京都一の傳で働くようになり、もともともっていた西京漬けのイメージがガラリと変わりました。父や母、親戚にもとても贈りやすくて重宝しています。

「蔵みそ漬」は店頭のほか、公式のお取り寄せページでもご購入いただけます。

▼「京都一の傳」お取り寄せページ

食べたことがない、という方にもぜひ召し上がっていただきたい京都の伝統料理「西京漬け」。

おうちでも漬け込むことができますが、味噌床を作ったり、漬け込みが終わるのを待つのが面倒…という方には、今はスーパーだけでなく、ネットショップでもいろいろなお店で西京漬けが売られています。気軽に買えるのでぜひ試してみてください。