普段日常ではなかなか知ることのできない和食のいろはをお届けする「和食講座」。
京の伝統料理・西京漬を作り続けてもうすぐ100年の老舗「京都一の傳」の本店の料理長 佐藤暢郎に、いつもよりちょっと本格的な和食をおうちでも取り入れられるようなレシピや、日本料理ならではのちょっとしたコツや、四季折々の話を伺っていきます。
7月の京都といえば「祇園祭」ですよね。
2021年は残念ながら規模を縮小しての開催となりましたが、祇園祭は7月1日の吉符入りからはじまり、3日間にわたる宵山、17日の山鉾巡行など、31日の疫神社夏越祭まで1か月にわたって行われる日本三大祭のひとつです。
この祇園祭ですが、別名「鱧祭り」と呼ばれることもあるのはご存じでしょうか。鱧は梅雨が明ける祇園祭のころに旬を迎える魚。祇園祭中は鱧料理が広くふるまわれ、京都の夏の味覚として親しまれています。
第一回目となる今回は、そんな旬の食材「鱧」と発酵食品である酢を使った京都の夏ならではの料理を教わりました。
かつお節の旨味たっぷりの万能調味料「土佐酢」
佐藤 発酵WEBマガジン「Haccomachi」での企画なので、せっかくなら「発酵食品」を使ったものをご紹介できればと思います。 まずは料理の味の決め手となる土佐酢を作ります。
― 料理長直伝のレシピ、楽しみです。土佐酢ってなかなか普段使わないのですが、どんなものですか?
佐藤 土佐酢はたっぷりの出汁と酢を合わせたものです。三杯酢よりも酸味がまろやかなので、いろいろな料理に使えますよ。かつお節の旨味たっぷりで香り高く、淡泊な魚介や野菜などによく合います。
― なるほど。まろやかな酸味で鱧とも合いそうですね。 今回の料理以外でも、後一品が欲しいときに魚介と和えたり、野菜にドレッシング代わりにかけたりと活躍しそうです。 これってどのくらい日持ちするものなのでしょうか?
佐藤 作った土佐酢は冷蔵庫で1週間ほど日持ちしますよ。出汁さえあればすぐ作れるのでぜひ試してみてください。基本の土佐酢をさらに出汁などで割った場合は2,3日を目安に使い切ってください。
「基本の土佐酢」の作り方
■材料
出汁 180cc
酢 180cc
薄口醤油 45g
みりん 18g
砂糖 40g
塩 4g
かつお節 5g
■作り方
かつお節以外の材料を火にかけ、沸騰したらかつお節を入れ、すぐに火を消す。
キッチンペーパーなどに通し、静かに濾したら出来上がり。
最後に加える追いがつおで、鰹の香りがぐっと際立ちます。
旨味をぎゅっと閉じ込めた土佐酢と共に旬の食材を味わう
さて、いよいよこの土佐酢を使ったあんかけを鱧と旬の野菜にかけて味わう、「鱧とズッキーニのトマト土佐酢あんかけ」を作っていきます。
土佐酢をあんかけにすることで見た目も涼やか。トマトの旨味も加わり奥深い味わいになります。 旨味が詰まっていながらもほどよい酸味があり、さっぱりと楽しめます。
「鱧とズッキーニのトマト土佐酢あんかけ」の作り方
■材料(2人分)
鱧 1/4匹(1人あたり3切れほど)
ズッキーニ 1/3本
トマト 中1/8個
塩麹 適量
土佐酢 20g
出汁 20cc
葛(もしくは片栗粉) 2g
■作り方
① 鱧と野菜の下ごしらえ
まずは鱧の湯引きを作ります。
骨切りをして一口大にカット。鍋に湯を沸かし、まずは皮目を20~30秒湯に浸けます。その後切り身全体を湯に入れ、身の色が白く変わったらすぐに氷水に取ります。
※鱧はスーパーの湯引きされたものや、骨切り済のものでもOK!
湯引きが終わったら水気を切り、刷毛などで表面に塩麹を薄く塗ります。
ズッキーニは輪切りにして揚げ焼きに。少し焦げ目がつくくらいが目安です。 こちらも火からおろしたら塩麹を塗って1~2分置いておきます。
佐藤 塩をそのままふると味を均一にするのが難しいんですよね。でも塩麹だと全体にまんべんなく塗ることができます。 しっかりと味をつけたい場合は裏面にも同じように塩麹を薄く塗ってください。
②「土佐酢あんかけ」を作る
土佐酢と出汁を合わせます。
そこへ同量の水で溶いた葛(片栗粉)を入れ、混ぜながら加熱します。
葛の色が透明になりとろみがついたら火からおろして冷やします。
●ワンポイント
どんな量でも以下の割合で作れば失敗しません。
土佐酢:出汁を1:1で合わせたものをAとします。
A:葛:水が20:1:1となるように合わせます。
そこへ、種をとり、細かくカットしたトマトを入れ、混ぜ合わせます。
先ほど用意した鱧とズッキーニを器に交互に盛り付け、先ほど作ったあんかけを上からかけたら完成です。
佐藤 鱧の代わりに鯛などの白身魚の刺身や、鶏にさっと片栗粉をまぶして揚げたものと合わせるのもおすすめですよ。 鱧はスーパーで湯引きしたものを買ってきても、もちろん大丈夫です。
― はじめからすべてを完璧にと思わなくても、ポイントを少し取り入れるだけで、いつもの料理の幅が広がりますね!
佐藤 おかずもたくさん作らなくとも、これとお味噌汁とあとは炊き込みご飯などがあれば十分な一食になります。
酸味と旨味がほどよく、夏にぴったりの味わい
実際に作ったものをいただいてみました。
淡泊で上品な鱧の身に、トマト土佐酢あんかけがしっかりと絡み、たっぷりの旨味が口の中に広がります。 水分の多い野菜のズッキーニと土佐酢の相性も抜群。
あんかけだけのシンプルな味付けですが、塩麹で全体にまんべんなく塩味を浸透させているおかげで上品ながらしっかりとした味わいに仕上がっています。 ちょっとしたひと手間が大切なんですね。
透明感のある土佐酢とトマトの赤、ズッキーニの緑に鱧の白が映え、見た目にもとっても涼やかで暑いこの時期にも食欲をそそります。 おうちでこんな料理が出てきたらたまりません。日本酒と合わせるのもよさそうですね!
京都一の傳 本店の7月のコース料理でも鱧を使った料理が出てきます。
▲京都一の傳 本店7月の御膳より「鱧の道明寺蒸し」
もちもちとした道明寺粉をまとったふわふわの鱧に玉ねぎの甘味をたたえたべっこう餡が絡み、お口いっぱいに旨味が広がる「鱧の道明寺蒸し」。 京の伝統野菜の賀茂茄子も一緒にお楽しみいただけ、京の夏をご堪能いただけます。
京都一の傳 本店では、毎月、旬の食材がたっぷり使われた季節の前菜をはじめ、椀物、炊き合わせ、そしてメインには京都一の傳秘伝の西京漬「蔵みそ漬」をお楽しみいただける月替わりのコース料理をご用意してお待ちしております。
■京都一の傳 本店
所在地:
〒604-8121
京都市中京区柳馬場通り錦上る十文字町435番地
営業時間:
1階 お買い物 10:00~18:00/2階 お食事 11:00~16:00(L.O.14:30)
電話番号(お食事専用ダイヤル):
075-254-4070(受付時間10:00~18:00)
※お食事は事前のご予約をおすすめしております。
公式ホームページ:
https://www.ichinoden.jp/
京都にお越しの際はぜひお立ち寄りください。