発酵を手軽に楽しむためのWEBマガジン

発酵読書ノート①「女と味噌汁」

本屋さんにはたくさんの発酵本があってどれを選べばいいのか迷ってしまう・・・・・・
そんなあなたのために、発酵のオモシロさがぎゅっとつまった一冊をおすすめするコーナーが「発酵読書ノート」です。

発酵がテーマとはいえ、いきなり難しい研究書を読むのはハードルが高いですよね。
だったら、発酵食品が登場する小説なんていかがでしょうか?

第一回目では、自慢の味噌汁を売る店をもつという夢のためにがんばる女性が主人公の「女と味噌汁」をご紹介したいと思います。

味噌汁のおいしい作り方、おいしいお茶の入れ方

舞台は、昭和40年の東京。
置屋「はなのや」の看板芸者である室戸千佳子が主人公です。

手間ひまをかけて鰹節をけずり、昆布の細片をちぎり、出汁をとる。
薬味にねぎを入れ、七味唐辛子をふった「味噌汁」。

食べる人に「こんなうまい味噌汁はじめてだ」と言わせ、三杯もおかわりさせるほど。


お茶をいれるときですら手間ひまを惜しみません。
熱いお湯を急須にいきなり注ぐと香りがとんでしまうから、一度茶碗にお湯をいれて、それを茶葉をいれた急須に注ぐ・・・・・・。

芸者だからお金があって高い茶葉を買えるのだとなじられても、「入れ方がうまいのよ」と返す。
ひと手間かければ、同じ茶葉でももっとおいしいお茶が飲めるのだと、快活に話すのです。

千佳子は、味噌汁のおいしい作り方やおいしいお茶の入れ方を祖母から習いました。

「同じお茶ならおいしく飲むということ」「おいしいお茶をいれて飲む仕合わせ」を祖母から教わったと話す千佳子からは、まっすぐに生きる強さが感じられます。

材料や素材の良さはもちろんですが、丁寧に作ることやひと手間を惜しまないことも大切だということ。

派手さはなくとも、毎日の積み重ねが、「仕合わせ」をつくるということ。
なんとなく、ここに「発酵」と通ずるものを感じました。

おいしいものをおいしく食べたい。食べてもらいたい。

「女と味噌汁」には全部で4つのエピソードがありますが、そのうちのひとつをご紹介します。

今は芸者として身をたてている千佳子ですが、ゆくゆくは自慢の味噌汁を売る店を持ちたいという夢があります。

まずは車での移動販売を思いつき、その手続きのために頼った弁護士・久保田の母とたまたま出会います。

久保田の母も、漬物の作り方を自分の母や、母の母、そのまた母の母から習っており、何代も何代も大切に育て伝えてきたものだと語ります。

代々大切に育ててきた漬物は私の生甲斐だと話す老婦人。
久保田には妻がいますが、「臭いをかいだだけで気持ち悪くなる」から漬物が嫌いで、老婦人とうまくいかず家庭がぎくしゃくしてしまったのだそう。

老婦人も息子とその嫁のために一度はあきらめようとしますが、おいしい漬物を食べてもらいたい、受け継いだ味を守りたいという思いから、あきらめられず別居という形になります。

「おいしいものをおいしく食べたい。自分にも人にもおいしく食べてもらいたい」という強い信念をもつ千佳子は、その思いに共感し、 漬物の作り方を習うことに。

それが別居している久保田の妻に知られ、置屋に乗り込んでくる事態となります。
千佳子は人の話を聞こうとしない久保田の妻に、「味噌汁や漬物や、あったかい御飯、きんぴらごぼうや田楽や、サンマの焼いたの」を食べてもらう店をもつ夢について、自分の生き方について話をします。

千佳子の話を聞いた久保田の妻も、もう一度久保田とその母と話し合ってみると言い帰っていきます。

何を言われようとも、自分の夢を叶えるために一歩一歩進んでいく姿はしなやかさでたくましく、見ていて清々しいほどです。

第二話の最後で、千佳子は中古のライトバンを手に入れ念願の味噌汁屋を始めるのでした。

おなかも心も満たす「味噌汁」

自分の力で生きていこうとする千佳子。

いろいろな問題はふりかかってきますが、自慢の味噌汁やおいしい料理、そして持ち前の明るさで乗り越えていく生き様は、物語の舞台である昭和40年から50年近くたった今でも魅力的にうつります。

出汁から味噌汁を作ること。
丁寧にお茶を入れること。
糠床で漬物を作ること。

「仕合わせ」は毎日の積み重ねのなかにあるのかもしれません。

おいしい味噌汁は、おなかを満たすだけでなく、気持ちも満たしてくれる。
発酵食だからこそできることなのではないでしょうか。

女と味噌汁

著者:平岩弓枝
出版社:集英社文庫(2016/3/18)
仕様:A6判/264ページ
ISBN:978-4087454260
定価:500円(税別)