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京都一の傳 本店 料理長の和食講座〈vol.3〉 – 「出汁」の取り方、「出汁」を使ったレシピ

普段日常ではなかなか知ることのできない和食のいろはをお届けする「和食講座」。 京の伝統料理・西京漬を作り続けてもうすぐ100年の老舗「京都一の傳」本店の料理長 佐藤暢郎が、いつもよりちょっと本格的な和食をおうちでも取り入れられるようなレシピや、日本料理ならではのちょっとしたコツ、四季折々の食材の話をお伝えしていきます。

今回は和食の基本とも言える「出汁の取り方」です。

Vol.1では「季節の料理」、Vol.2では「味噌汁」について話を聞いてきましたが、どちらにも「出汁」が登場しました。 やっぱり美味しい和食には出汁が欠かせませんよね。

料理長 佐藤

そういえば、出汁の取り方はまだお話してませんでしたね。
基本的なことかもしれませんが、改めて教えてください!

料理長 佐藤

ではまず、基本的な出汁の取り方と、特に暑い時など、鍋でお湯を沸かすのが億劫なときにおすすめの“水だし”出汁の作り方をお伝えします。
最近涼しくはなってきましたが、まだまだ長時間火の前に立つと暑いのでありがたいです!

出汁の取り方の基本

「一番出汁」の基本の取り方

材料

水 700ml
昆布 12g
かつお節 20g

①昆布を水から弱火でゆっくりと加熱し、60度~65度になるよう火加減を調整する。爪がスッと入るくらい柔らかくなったら昆布を取り除く。(出汁取りに使った昆布は料理に再利用できます)

※昆布をぐらぐら煮詰めると出汁の風味や旨味が昆布の雑味でかき消されてしまうので、決して沸騰させないのがポイントです。

②昆布を取り除いたら火を強め、80~85度くらいになったらかつお節をさっと入れ、かつお節が沈んだら火から外す。

③静かに濾したら出来上がり。

暑い季節におすすめ「水出しの出汁」の取り方

材料

水 1000ml
昆布 20g
かつお節 24g

①材料をすべて同じ容器に入れ、冷蔵庫で1晩置く。

②昆布を取り除き、鰹節を濾したら完成。

料理長 佐藤

出汁の香りや旨みが強いのはやっぱり火入れして作る出汁をひいてすぐのもの。香りが立っていて美味しいです。でも真夏など暑い時期には、冷蔵庫に一晩入れておくだけで出来る水出しの出汁も合わせて活用するのがいいかなと思います。
少しでも大変だなと感じると続けられないですもんね。

料理長 佐藤

作った後の出汁は冷蔵庫で保管して、1~2日で使い切るのをおすすめします。
出汁取りに使った昆布は料理に再利用できるとおっしゃっていましたが、どんな料理に使えますか?

料理長 佐藤

例えば細く刻んでフライパンに入れ、醤油、みりんを同じ割合で、それより少し少な目の酢を加えて炒めます。全体になじんだら、かつお節やごまを適量入れて混ぜ合わせると美味しい佃煮ができますよ。ほかにも浅漬けをつけるときに入れたり、煮物に入れたり、炊き込みご飯の具材にしたり、いろいろな料理に活用できます。
そのまま捨てるのはもったいないですし、まだまだ旨味が残った昆布を有効活用したいですね。

料理長 佐藤

そのまま二番出汁を取ってしまうのもありですね。

二番出汁の取り方は「京都一の傳 本店 料理長の和食講座〈vol.2〉 – 季節のお味噌汁【夏】」でもご紹介しましたが、以下の通り。

「二番出汁」の取り方

材料

一番出汁で使った昆布とかつお節の出汁ガラ
水 800ml
かつお節 10g

①一番出汁で使った昆布とかつお節の出汁ガラと水800ccを火にかけ、沸騰したら弱火で5分ほど煮出す。

②かつお節を追加したらそのまま弱火で2分ほど煮出す。

③火を止めてクッキングペーパーなどで静かに濾したら出来上がり。

料理長 佐藤

基本の出汁の取り方を覚えておけば、和食の幅が広がりますよ。

炊き込みご飯やおかずに使える万能な「合わせ出汁」

料理長 佐藤

あとは知っておいて損はないのが、炊き込みご飯やおかずに使える合わせ出汁の配合。 150ccに対して醤油とみりんをそれぞれ10gずつ合わせれば、炊き込みご飯に使う合わせ出汁が出来上がります。 「出汁:醤油:みりん=150:10:10」の配合であればどんな分量にも応用できます。 この「合わせ出汁」を使った簡単な炊き込みご飯のレシピもお伝えしますね。
ありがとうございます!

「生姜と京揚げの炊き込みご飯」

材料(2合分)

一番出汁で使った昆布とかつお節の出汁ガラ
出汁 300ml
醤油20g
みりん 20g
京揚げ 1枚
しょうが 50g…辛みが苦手な方はしょうがを水にさらしてから使う。

①出汁と醤油、みりんを合わせて合わせ出汁を作る。
生姜は細切りに、京揚げは1cm角にカットする。
お米は研いだ後30分ほど水に浸し、ざるにあげておく。

②お米と合わせ出汁を入れて軽く混ぜたら、刻んだ生姜、京揚げの順に入れる。

③土鍋、もしくは炊飯器で炊き上げる。

●土鍋の場合

強火にかけて沸騰したら弱火にして10分加熱。火を止めて15分ほど蒸らす。

●炊飯器の場合

材料を合わせたら、炊き込みモードでそのまま炊けばOK。

料理長 佐藤

生姜の旬はちょうど夏の終わりから初秋にかけて。 生姜のキリッとほどよい辛さと、やさしい京揚げが上品な出汁によく合います。
京揚げって油揚げとは違うんでしたっけ?

料理長 佐藤

京揚げは油揚げの一種ですが、油揚げと違い、中にお豆腐が残っているところが違います。 油揚げは内部までしっかり揚がっているのに対して、お揚げの部分と豆腐の部分が混在していて、やさしいお豆腐の味わいも合わせて楽しめますよ。
この炊き込みご飯には京揚げがすごく合いますね。 定番の五目炊き込みご飯もいいですが、少ない具材ながら満足感のあるちょっぴり大人な味わいで美味しいです。 具材を引き立てる合わせ出汁のほどよさがまたいいですね!

料理長 佐藤

「合わせ出汁」は炊き込みご飯だけでなく、おかずにも使えます。例えば、茄子の揚げびたしなどにもぴったりですよ。 さらにその上に出汁でのばした白味噌をたっぷりのせた加茂茄子の揚げ出し田楽は、上品な出汁と甘い白味噌の風味のバランスがたまらない一品です。 作り方をお伝えするので、こちらもぜひ茄子が美味しいうちに試してみてください。

「加茂茄子の揚げ出し田楽」

材料(2合分)

加茂茄子 1個
合わせ出汁(「出汁:醤油:みりん=150:10:10」で合わせたもの) 170ml
白味噌 10g

①加茂茄子はへたをカットし、1.5cmくらいの輪切りに。味が染みやすいよう、格子状に深さ0.5~1cmほどの切り込みを入れておく。

② ①を170度の油で揚げ、うっすらきつね色になったら、沸騰させた合わせ出汁に入れて弱火~中火で1分ほどコトコトと炊く。

③先ほど使った合わせ出汁10gほどと白味噌を合わせてゆるくする。
※みりんを少し加えると角が取れて甘くなる。

④ ③を出汁から出した茄子の上にうすく伸ばし、お好みで上に寺納豆(塩辛納豆)を添えたら完成。

茄子がとってもジューシーで美味しいです!茄子の下味や白味噌の風味を引き立てていて、合わせ出汁が縁の下の力持ちとして料理の味を支えてくれているような感じがします。

実は「発酵食品」なかつお節

昆布とともに出汁の源である「かつお節」ですが、実は発酵食品のひとつであることはご存じですか? ‟世界一硬い”発酵食品とも言われています。

かつお節の固さの秘密は徹底的な乾燥。 鰹を煮て何度も燻したあと、「カビつけ」といって、かつお節菌を表面に吹きかける工程を施します。 そうするとかつお節菌が鰹の中の水分を求めて入っていき、鰹の水分を外に逃がしていきます。

こうやって乾燥が進んだかつお節は生の状態からは想像できないほど固く仕上がるわけですね。 また、水分量が少なくなることで、ほかの微生物が生育できなくなるため長期保存可能になるそうですよ。

鰹に含まれるたんぱく質はかつお節に変化する過程でぐんと増えます。 かつお節は、そのたんぱく質を、自身の酵素で旨味成分である「アミノ酸」や「イノシン酸」に分解するため、芳しい香りの抜群の旨味が生み出されます。さらに油脂成分を「脂肪酸」と「グリセリン」に分解し、その成分を自身で消費するのだとか。 だからかつお節で取った出汁の表面には油分が浮かず、澄んだ綺麗な色になるんですね。

そんなかつお節は、上品な香りと旨味で食材の良さを引き立てる必須アミノ酸を含み、良質なたんぱく源として、昔から日本人に欠かせない食べ物のひとつでした。

京都一の傳 本店の「出汁」

「京都一の傳 本店」では道南 福島産真昆布と、枕崎、指宿を中心に厳選した鰹節・鮪節を使用。 独自の配合でブレンドし、旨味を最大限に引き出した極上のお出汁を使用しています。

現在は緊急事態宣言の発令に伴い、飲食営業を休業しておりますが、再開の折には名物である秘伝の西京焼き「蔵みそ焼」とともに、体に染み入る美味しさの出汁の味わいをご堪能ください。

前回の料理長の和食講座はこちら

京都一の傳 本店 料理長の和食講座〈vol.1〉 – 7月のレシピ紹介:「鱧」×発酵食品「酢」 京都一の傳 本店 料理長の和食講座〈vol.2〉 – 季節のお味噌汁【夏】

「京都一の傳 本店」では、毎月、旬の食材がたっぷり使われた季節の前菜をはじめ、椀物、炊き合わせ、そしてメインには京都一の傳秘伝の西京漬を丹念に焼き上げた「蔵みそ焼」をお楽しみいただける月替わりのコース料理をご用意してお待ちしております。

京都一の傳 本店

所在地
〒604-8121
京都市中京区柳馬場通り錦上る十文字町435番地

営業時間
1階 お買い物 10:00~18:00/2階 お食事 11:00~16:00(L.O.14:30)

電話番号(お食事専用ダイヤル)
075-254-4070(受付時間10:00~18:00)
※お食事は事前のご予約をおすすめしております。
※新型コロナウィルスの影響で飲食営業を臨時休業、時短営業している場合がございます。詳しくは公式ホームページをご覧ください。

公式ホームページhttps://www.ichinoden.jp/
公式インスタグラム@ichinoden
公式Facebook@ichinden

京都一の傳 本店 料理長

佐藤 暢郎

大阪の有名和食店やホテルで研鑽を積んだ後、自身の和食店「素料理さとう」をオープン。ビブグルマンを獲得し、その後2017年5月に京都一の傳 本店料理長に就任。素材の味わいを活かしつつ、お客様に新たな発見をお楽しみいただけるような料理を信条としている。