本屋さんにはたくさんの発酵本があってどれを選べばいいのか迷ってしまう・・・・・・
そんなあなたのために、発酵のオモシロさがぎゅっとつまった一冊をおすすめするコーナーが「発酵読書ノート」です。
今回は、発酵デザイナーとして注目をあつめる小倉ヒラクさんの「発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ」をご紹介します。
「発酵文化人類学」とは?
そもそも文化人類学という単語は聞いたことがあるけれど、「発酵文化人類学」という単語は聞きなれないかもしれません。
小倉ヒラクさんがつくった造語で、「発酵を通して、人類の暮らしにまつわる文化や技術の謎を紐解く学問」のことです。
「発酵」や「微生物」をキーワードに、今まで関係ないと思っていたものがつながっていたり、大切だったりすることに気づくことを目指し、新しい「視点」を持ち込むべく活動するのが、この学問なのだそうです。
この本に期待していいことは、次の三点。
・発酵文化の面白さがわかる
・同時に文化人類学における主要トピックスがなんとなくわかる
・人類の起源や認知構造についてそれとなく見識が深まる
まえがきには、「人間と微生物の織りなすミクロの不思議な世界を旅するトリップ本として読んでもらいたい」と書かれています。
発酵文化の違いは、民族の文化の違い
発酵と腐敗の違いは、人の役に立つか立たないかということ。
地球上でもっとも繁栄している生き物である微生物の中には、人間になつき、良いことをしてくれるものがいます。
その微生物の力をひきだして、人間の生活の役に立つようにして発展してきたものが発酵文化だというわけです。
そしてこの発酵文化には共通点も数多くあれど、地域によってさまざまな違いがあります。
たとえば、日本ではニホンコウジカビが全ての発酵の源ですが、おとなりの中国ではクモノスカビやケカビが「麹」としてつかわれることが一般的。
穀物や薬草類を粉に挽いて、水でこねてつくった団子や餅のようなものに、クモノスカビやケカビを繁殖させる「餅麹(もちこうじ)」という製法で、紹興酒や白酒(アルコール度数のとても高い焼酎)の製造に使われます。日本のように、調味料や漬物に使われることはほとんどないのだそう。
日本の「糀」のように、表面がモコモコしておらず、深く菌糸をはりめぐらせて乾燥したレンガのようなテクスチャーが特徴です。
それに対して日本の「糀」は、パラパラとした蒸米一粒一粒にニホンコウジカビを繁殖させる「散麹(ばらこうじ)」という技法で呼ばれています。
中国と違い、酒だけでなく調味料や漬物の床など、その用途は多岐にわたり、まさに日本の食文化を支えているといっても過言でありません。
中国の麹と比べると胞子を長くのばすため、米の表面に花が咲いたようになることから「麹」ではなく、「糀」という漢字が使われています。
見た目やテクスチャーが違うと、もちろん味や風味も大きく異なります。
クモノスカビが生み出す風味の特徴は「酸味」。
大量の酸をつくりだすことで、他の雑菌をよせつけないようにするため、中国の麹は腐りにくく長期保存が簡単だったのだそう。
反対に日本の糀の特徴は「甘味」。
クモノスカビに比べて、ニホンコウジカビは糖分をつくる力が強いかわりに、酸はあまりつくらないので、他の雑菌が繁殖しやすいというデリケートさを併せ持ちます。
す。
また、香りにも違いが。
上等な紹興酒や白酒には「パイナップルを思わせる刺激的で甘酸っぱい、南国のフルーツの香り」が、一方、日本酒には「メロンやバナナを思わせる穏やかに甘い、たおやかな香り」があるのが特徴。
同じ「発酵」でも、土地が違えば味も用途も違う。
そしてその違いは、民族や文化の違いにつながる。
発酵文化人類学とは、この違いを今までとは違った視点で見つめ、人間とはなにか見直す学問でもあります。
わかりやすい例えで、難しい知識を解説!
ここだけ見てみると、すこし難しそうだな、と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
私はまえがきを読んで、ちゃんと理解できるのか少し心配だったのですが、普段の生活のなかではどういったものを指すのか、たとえや実例が盛りだくさんなおかげで、内容がすんなり入ってきてあっという間に読めてしまいました。
比喩が秀逸で思わず「フフフ」となってしまうのも、小倉ヒラクさんの言葉の選び方が成せるわざ。
個人的にいちばん好きなのが143ページの、
ジョン・レノンが歌わないとただの「オノ・ヨーコにデレデレしているおじさん」ですが、彼のつくったイマジンが、世界中の人たちに愛され、世代を超えて歌い継がれ、世界平和に役立っているのだぜ。
というところ。
発酵菌と酵素の違いについて説明されている箇所なのですが、これだけではきっと何かさっぱりわからないですよね。
一体なにについて例えたのか、答えはぜひ読んでみてください!
日々の食生活に浸透している「発酵」が幅広い角度から語りつくされている本書。
「発酵」のオモシロさや、奥深さを改めて知ることのできる一冊です。
発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ
著者・イラスト:小倉ヒラク
出版社:木楽舎(2017/5/1)
仕様:四六判/ソフトカバー/384ページ
ISBN:978-4863241121
定価:1,600円(税抜)